三國連太郎、佐藤浩市が共演時から驚くほど変化した『美味しんぼ』

マンガ

更新日:2020/5/14

『美味しんぼ』(雁屋 哲:著、花咲アキラ:イラスト/小学館)

『美味しんぼ』(雁屋 哲:著、花咲アキラ:イラスト/小学館)

 4月15日に俳優・三國連太郎永眠の報を受け、多くのメディアで故人を偲ぶ映像が流れた。その際、実の息子・佐藤浩市との長年の確執を解消するきっかけとなった作品として紹介されていたのが、現在も『ビックコミックスピリッツ』(小学館)で連載が続いているマンガ『美味しんぼ』(雁屋 哲:著、花咲アキラ:イラスト/小学館)の実写映画版(1996年)である。主人公・山岡士郎と、その父・海原雄山との確執がストーリーの根底をなすこのマンガと、佐藤、三國の実生活における親子関係が近いということで、公開時にかなり話題となった。

 ところが、この『美味しんぼ』、原作は15年以上過ぎた現在も単行本が100巻を超えるほどの長寿マンガとして続いており、作中における山岡と父・海原雄山との関係は当時から格段に変化を遂げている。

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 まず山岡は、東西新聞社文化部の「究極のメニュー」の担当をともに務める栗田ゆう子と結婚。現在までに双子の男女と、その下に女の子を儲けており、三児の父となっている。そのせいか、山岡、ゆう子とも顔の輪郭や体格がやや横に広がり、ふっくらした線に変化しつつある。

 また、東西新聞の「究極のメニュー」に対向する形でライバルの帝都新聞が海原を前面に押し上げて立ち上げた「至高のメニュー」との料理対決については、“どれだけ相手を喜ばせることができるか”というテーマにおいて一応の区切りがついており、対決後、亡き母(雄山にとっては妻)の写真を前に、2人がワインを交わす姿が描かれている(第102巻)。これは、夫である山岡と義父である雄山の不仲を何としても解消したいと思っていたゆう子の、もはや執念とも言える立ち回りによる賜物である。

 さらに山岡と雄山は、この一応の和解を契機に世代交代にまで動いている。山岡は同じ文化部の記者で、雄山を尊敬するあまり彼のもとに飛び込んで認められて以降、完全にレギュラーメンバーとなっていた飛沢周一を「究極のメニュー」の担当者とし、雄山も自らの経営する会員制の料亭「美食倶楽部」の板前を務め、第1巻から度々登場していた岡星良三を後継者に指名。ともに、対決の際はバックアップする形で力になってはいるが、発表や説明は彼らが行なっているのだ。こうした展開には、時の流れを感じざるを得ない。

 そして他にも、前出の岡星良三の兄で、銀座に小さな料理屋を構え、山岡の良き協力者として貢献していた岡星精一が生真面目さが災いしてうつ病になってしまうなど、ショッキングな出来事なども起きている(その後、山岡の計らいなどもあり徐々に良化の方向に進んでいる)。こうした、比較的最近の展開は、山岡と雄山が火花を散らして対決していた頃の印象しかない人からすると、かなり驚くことになるだろう。

 そんな状況を踏まえ、『美味しんぼ』は最終的にどのような形で終局を目指すことになるのだろうか。もちろん、現時点で不明だが、和解直後の雄山曰く、山岡については「今までは虫けら同然に扱ってきたが、これからは少し対等に扱ってやろうというだけのこと」とのこと。2人の対決は、同じく「究極対至高」をテーマに別途始まっていた「全県味巡り」にて継続して行われている。

 となれば、原作者の雁屋哲と著者の花咲アキラの食への追求とある程度の人気が維持される限り、もはやライフワークとなっている連載は、これからも続くことになりそうだ。

 もっとも、長い年月連載が続けば、歳をとるのは当たり前。各県の食で勝負する「全県味巡り」は、47都道府県中、まだ10県にも達していない。

 すべての都道府県を対決し終える頃、山岡夫妻や雄山の姿はさらに変化していくのだろうか? もちろん、本筋である料理の対決は楽しみではるが、彼らの今後の変貌ぶりも興味深く、そして末永く見守っていきたい。

文=キビタキビオ