廃道、海上国道、動物の標識…意外と奥深い「道路あるある」

社会

更新日:2013/4/30

 うんざりする時とは渋滞の時間、走る喜びもなく、ゆっくり考えに耽ることもできない――これは伊坂幸太郎の小説『ガソリン生活』(朝日新聞出版)の語り手である緑色の車「デミオ」の独り言だ。車内の人たちの感情が車に影響し、苛立ちや焦燥、疲弊が滲んで、あまり穏やかではいられないんだそうだ。

 ゆっくりと考えに耽れないという車には申し訳ないが、じりじりと進まない渋滞にハマってしまうのは、人間にとっても楽しいものではない。しかしそんな退屈な時間を持て余してしまう前に、ぜひ『大研究 日本の道路120万キロ』(平沼義之/実業之日本社)をオススメしたい。日々何気なく使っている「道路」について知ると、まったく違って見えてくるという本書には、日本のありとあらゆる道路の定義が網羅され、その成り立ちや歴史、法律、そしてさまざまな知識が詰め込まれている。それもそのはず、著者は廃道を扱ったWEBサイト『山さ行がねが』の管理人で、日本初のプロ・オブローダー(廃道研究者)という筋金入りの「道」マニアなのだ。

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 まずはフロントガラスの先、居並ぶ車の屋根の上へ視線を上にしてみよう。目の前に行く先が書かれた「案内標識」がないだろうか? その看板の色は何色だろうか? 緑ならそこは高速道路であり、青ならば一般道だ。また緑でも青でもない、白い看板に矢印と地名、キロ数が書いてあるという人はいないだろうか? それは道路ファンから「白看」と呼ばれる、昭和46年までに設置された旧式の案内標識だそうだ。道路標識令が改正された際、新しい標識に取り替えるという決まりがなかったので、白看は今も現役で活躍しているという。また案内標識に書いてある地名に「そんな場所、ずっと遠くじゃねーか!」と思わずツッコミを入れた人もいるだろう。これには基準となる地名や重要な地名などが細かく規定されていて、それらを組み合わせて表示するための厳格なルールがあり、それに則っている。だから案内標識の指示通りに走れば、ちゃんと目的地に着けるようになっているのだ。

 さらに視線を左へ動かすと、道端に逆三角形の青い標識があるだろうか? それは「国道」の標識だ。国道の正式名称は「一般国道」といって、現在459路線、総延長は55114キロ余りあるという。そしてその標識には「路線番号」の数字が書いてあるが、これには欠番があることをご存知だろうか。その欠番は59~100号、そして109~111号と214~216号だそうだ。なぜこれらが欠番になったのかは、ぜひ本書で確認して欲しい。また車が通る道だけが「国道」ではない。山道や廃道のような、道路ファンから「酷道」とよばれる道も各地に存在している。また海の上にある「海上国道」もある。首都圏を一周する国道16号や、佐渡島と新潟市・上越市を結ぶ国道350号などに存在するそうだ。渋滞の先、そのままずっと行くと海を渡る……なんて考えると、なんだか楽しくなってこないだろうか?

 この他にも高速道路や都道府県道、市区町村道、果ては農道や港湾道路などの規定や、碓氷峠のようにグネグネと曲がりくねった緩やかな坂の峠道が出来た経緯(もともと馬車や人力車用の道で、勾配を緩くしたため)、動物が飛び出す恐れのある標識の動物の種類には決まりがない(その地域で飛び出す恐れがある動物なら何でもOK!)など、道路の疑問の細か~いところまで懇切丁寧に書かれており、奥深い道路の世界を知ることができるのだ。

 しかしずっと外を見て「へー」「ほー」と感心してばかりでは前方不注意、脇見運転になって危険なので、くれぐれも安全運転でお願いします!

文=成田 全(ナリタタモツ)