流行語大賞間違いなし「じぇじぇじぇ!」を凌ぐ? 衝撃の東北弁

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/23

 高視聴率をキープし、人気を呼んでいるNHKの朝ドラ『あまちゃん』。なかでもドラマ内で登場する「じぇじぇじぇ!」という方言は一般にも浸透し、早くもアベノミクスと並んで「今年の流行語大賞は確実」と言われているほど。

 この「じぇ」という言葉は、ドラマのロケ地である岩手県久慈市小袖地区で使われているもの。脚本を担当する宮藤官九郎が、ロケハン時に海女さんが「じぇ!」と話すのを聞き、ドラマに活かしたのだとか。しかし、東北地方の方言には、思わず「じぇじぇ!」と発してしまいそうなほど、まだまだ面白い言葉が眠っているのだ。

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 そのことがよくわかるのが、『北東北の悪口辞典─青森・岩手・秋田の方言集』(小田正博/風詠社)という本。テレビの影響で、地方でも方言が話されなくなりつつある現在において、方言のなかでもより一層話されなくなっている「悪口言葉」に焦点をあてた1冊だ。

 たとえば、青森県の五戸町で使われる「けろけろむしこ」。岩手県の盛岡市や遠野地方の一部では「けろけろむす」とも言われるこの言葉、響きはとてもかわいいが、その意味は「何でもすぐ欲しがる人」のこと。ネット上では画像やURLなどを欲しがるユーザーが「クレクレ厨」と呼ばれているが、これも東北弁に直せば「ケロケロ厨」となる。

 言葉の音がチャーミングなものでいえば、青森県弘前市の一部で使われている「ちょちょぢ」もオツな響き。これは「お喋り」という意味で、「葦切の鳴き声」が転じたものだそう。なんとも風流な言葉ではないか。一方、岩手県洋野町の一部で使われる「えどどのもん」は、飲兵衛や泣き虫、欲張りなど「大変な人」の意。「えどど」は「いどど」という言葉で、「ますます、一段と」という意味があるらしい。近頃、ネット上で流行っている“ぐーかわ”(ぐうの音も出ないほどかわいい)に飽きた人は、「いどどカワイイ」なんて言ってみるのもアリかも!?

 また、言葉のイメージと実際の意味に開きがある言葉が多いのも、東北弁の面白さ。例としては、前出の五戸町で使われる「あんこつら」。“あんこ”と“つら”だから、なんとなく“甘い顔立ち”のことを意味するのかと思いきや、「(身につかない)きざな風をした人」のことを指すそう。ちなみに「あんこ」は、長男や兄、若い父親といった意味があるようだ。

 ドキッとさせられるのが、旧江刺郡(現・奥州市)の「づらもの」という方言。でも、この方言、カツラを着用している人のことを言っているわけではない。「づらもの」は「不良者」と書き、「づらづらして捕らえ所のない人」の意。すなわち「図々しく一筋縄ではおえない者」に対して使われるようだ。

 東北の広い地域で使われる「たがらもの」も、“宝物”と同じように感じるが、「おめでたい奴、怠け者、道楽息子」などの意味を持つ。これは「宝物を逆説的に使用したもの」で、自分の息子を謙遜して「おらえのたがらもの」といったふうに使うこともあるという。恥ずかしがり屋で控えめな人が多いともいわれる東北ならではの言葉なのかもしれない。

 このほかにも、「とろろ」は「仕事が遅い人」、「ねぎ」は「欲深く用心深い人」という意味で使われる地域もあるらしい。今回、紹介したものは「悪口」の方言に限ったものだが、褒め言葉や日常の言葉にも、きっと発見がたくさんあるはず。東北弁の奥深き世界に目を向けると、『あまちゃん』もより楽しめるかもしれない。