第2回twitter怪談短歌コンテスト 受賞作発表!

更新日:2013/5/13

 女の子のためのコワ~い文芸誌『Mei(冥)』2号刊行を記念して開催された第2回twitter短歌コンテスト。その受賞作がこのたび決定! 4月26日(金)にお台場のカルチャーカルチャーにて、審査員の東直子さん、佐藤弓生さん、石川美南さんそれぞれより、各大賞作品と佳作、次点が発表されました。4月26日(金)東京カルチャーカルチャーでの講評の詳細は、書籍に収録・刊行予定! お楽しみに!

(※募集期間=2013年3月27日~4月10日。システムの不具合により3月中の投稿でハッシュタグ検索できないものは『幽』編集部にメールで再応募いただいたものを除き、選歌対象外となりました)

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    東直子さん
    (写真=小松勇二)
  • 佐藤弓生さん
    (写真=冨永智子)
  • 石川美南さん

 
[大賞・各1作]

【東直子賞・大賞】

姉野もねさん
父さんがタンシンフニンしたという シチューの肉がそっと震える

(選評)「単身赴任」を片仮名で開くことにより、不穏なイメージを引き出すことに成功した。事務的な響きの中に「シニン」という言葉が隠れていたことが審らかになったのである。そこにいないことの言い訳として単身赴任したことになっている父親は、シチューとして煮られる肉になってしまったのか。日常を穏やかに描いたように見せつつ、結句の「そっと震える」という擬人化によって声を出せない無力さが現れ、恐怖がじわじわ迫ってくる。


【佐藤弓生賞・大賞】

廻転寿司さん
独り身の遅れた春に野天湯で舌の冷たい女と浸かる

(選評)舌が冷たいってなんで知ってんの? という野暮な問いはともあれ、この女性、さては血がかよっていないのか爬虫類の化身か……。「遅れた春」のそれなりにハッピーな背景を、第四句「舌の冷たい」のたった七音が、一転、不穏な雰囲気に塗りかえました。
思えば怪談に風呂やトイレのエピソードが多いのは、身体の一部または全部が裸、つまり無防備な状態だからなのでしょう。まして人里離れた野天風呂では。


【石川美南賞・大賞】

らんてんさん
絶え間なくうごくマスクの奥に口ほんたうにいい一生だつた

(選評)すごい速さで動くマスクに目が行き、その奥の口が繰り返しつぶやいている一つのフレーズを聞き取った瞬間、背筋に冷たいものが走ります。絶え間なく自分の人生を肯定し続けなければ心が壊れてしまう、そんなぎりぎりの生を目の当たりにした怖さに震えました(もしかしたら彼/彼女は既に死者なのかもしれません)。
マスク→口→セリフという語順が効果的。ゆったりした旧仮名遣いと内容のギャップも恐ろしいです。


 
[佳作・各2作]

【東直子賞・佳作】

込宮宴さん
南瓜の切らるる前にくぅと泣くあれは友達だったのだろうか

(選評)「くぅ」というかわいく切ない声が絶妙。子供の頭のような南瓜の形と質感が、リアリティーを与えている。

砂山ふらり
(此処よパパ)畑の中の女の子手を振るように芽を吹きだして

(選評)()で括られた小さな声から、「芽を吹き出して」という迫力の結句に至る、メリハリのある構成が見事。


【佐藤弓生賞・佳作】

國森睛野さん
幾億のなきがら舌で転がしてうみはひろいなおおきいなって

(選評)海の擬人化と解釈しました。なきがらを飴玉のように舌でもてあそぶ海の無邪気さが、おそろしくも悲しい。

砂山ふらりさん
菜の花の中にさ迷ふ盲目のてふが一頭この世を去りぬ

(選評)明るい風景ですが、蝶は「盲目」。蝶が去った「この世」もまた、ほんとうは暗い場所なのかもしれません。


【石川美南賞・佳作】

立花腑楽さん
厠から仏間にかけてぴちゃぴちょとのたうつ金魚の一列縦隊

(選評)自分たちを弔うために仏間を目指すのか。不条理だからこそ怖い。ぴちゃぴちょというオノマトペも不穏です。

鮫漫坊さん
真っ白なうどんかき分け叫びます中にあの子がいるはずなのよ

(選評)うどんの中にわが子がいると信じ込み、必死に救い出そうとする語り手の危険な心のありように惹かれます。



[特別賞・北村薫賞]
当日、特別ゲストとしていらしてくださった北村薫さんにも、3首ご選歌いただきました!

【北村薫賞・大賞】

鮫漫坊さん
警察に服はどこかと尋ねられ全裸で渡す蝉の抜け殻


【北村薫賞・佳作】

込宮宴さん
右耳を誰かに見らるる気配あり 右眼を瞑って髪を洗えば
卜部つばささん
川上の方で堺は死んだはずしずかなしずかな竹林の影

 



多数のご応募をいただいたため、
受賞には至らなかったものの優秀な作品を、
次点としてご選出いただきました。


 

[次点・各10作]

【東直子賞・次点】
一双さん
爪を切り庭に撒いたら三日月が子らよ子らよと夜を濡らした

唐突坊さん
凍土から発掘された聖書には体温計が挟まっている。

comori140さん
ぺとぺとさんお先にどうぞと道譲る後ろにいたのがお前の父さん 

台所のキフジンさん
コンビニのあっためますかに促され喉から順に取り出してゆく

無樂さん
夜な夜なに眼鏡のアイツが誘い来る野球しようぜおまえボールな

飯田彩乃さん
靴ひもに触りくる指に指たちに躓かぬよう走る、走る

高橋徹平さん
そんなことないよと君の眼が透ける 蚕のからだはしんと冷たい 

佐多椋さん
鈴ほどの背丈になったわが母がかじった場所から腐ってゆきます 

葛紗さん
カーテンを身体に巻いて遊んでた奴の最期の顔が揺れてる 

banfuukaさん
路地裏のごみ集積所いつまでも回収されない人形が佇つ 
 


 
【佐藤弓生賞・次点】

alook_shioajiさん
ひたひたひた ひたひたひたひたひたひたひた ひたひたひたひた ひたひたみつけた

らんてんさん
絶え間なくうごくマスクの奥に口ほんたうにいい一生だつた

山崎智佐さん
背中だけ見せて揺れてるひまわりは私に気付き少し振り向く

鮫漫坊さん
潮騒に眠れぬ夜の金縛りヤドカリが来て耳に住み着く

星乃咲月さん
ふつふつと刺されることを受け入れてピンクッションは形を変える

空木アヅ
美しい女の足に履き替えてひとり静かにペディキュアを塗る

高橋徹平さん
そんなことないよと君の眼が透ける 蚕のからだはしんと冷たい

oboroose19 Novさん
待たせたなオレの体も、ああそうさ どこへ行こうか久しぶりだな

渋沢綾乃さん
すれ違う手を挙げあって通り過ぐ思い出売りと思い出買いが

こずえユノさん
水底のいえの小窓が開くという湖畔さくらの闌のころ
 


 
【石川美南賞・次点】

山中澪さん
夜に降る雨のすき間で立っているひとは「こんばんは」も知らないの

山中千瀬さん
行ったきり帰ってこない猫たちのためにしずかに宗教をする

空木アヅさん
美しい女の足に履き替えてひとり静かにペディキュアを塗る

桔梗さん
「宝くじ」「地獄」「くちばし?」「しゃれこうべ」「…ベンチ…」「血」「……ち、千葉」「ばらばら死体」

eyphkair2さん
兄さんは墓守として出て行った いつかのうたに腕を引かれて

景山歩美さん
コンクールひとつ混じっている影のきらきらしてる聞こえない歌

飯田彩乃さん
靴ひもに触りくる指に指たちに躓かぬよう走る、走る

姉野もねさん
加速して回りつづける観覧車恋人たちはひとつに溶ける

こずえユノさん
春ならんダム湖の底の村役場戸籍係りはゆらりペン持つ 

kusakagerouさん
バス降りて花見へゆかん夢なればあの世この世の輪にいり踊る
 


 
沢山のご応募ありがとうございました。