将棋ブームの立役者!? いま「観る将」がアツい

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/23

 最近、とある将棋本がネットで話題となった。若手プロ棋士・糸谷哲郎六段の著書『現代将棋の思想~一手損角換わり編~』(マイナビ将棋BOOKS)だ。この本は、将棋の戦法の一つ「一手損角換わり」の解説書なのだが、冒頭の前書きから少し変わったものになっている。

 「本稿の目的は一手損角換わりについての説明となるわけだが、その目的は何をもってすれば満たされるのだろうか?」

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 解説書なんだから戦法を理解できればいいじゃないかと思うなかれ。糸谷氏はこの本の中で、将棋のテクニックだけでなく、「なぜ、この戦法を使う必要があるのか?」ということを棋士の思考の流れを丁寧に説明しながら論理的に解説していくのだ。聞けば、糸谷氏は大学院の哲学科に在学中という異色の経歴というから、戦法の解説を思想として語るのもうなずける。その一方で、集中しすぎて対局中に対戦相手からとった駒をなぜか相手の駒台に置いてしまったり、相手の駒を取った際に自分の駒を関係のないマス目に置いてしまったりといった、通常では見られない珍しい反則負けを喫することもあり、天才が故なのか、かなりの変り種らしい。

 糸谷氏にかぎらず、棋士の中には個性が強く、愛すべきキャラクターの人たちが多い。最近では、ニコニコ生放送で、プロ棋士同士の対局や、プロ棋士とコンピューターソフトが団体戦形式で戦う「電王戦」が生中継されたりするなど、露出機会が増えたことで注目を集めるようになり、棋士たちの強い個性が、むしろ人気を集めているという。

 

「面白いのは、将棋のことを全然知らないような方も見ているということですね。そうした方々は、観る将棋ファン、通称“観(み)る将”と呼ばれています」 将棋専門の月刊誌『将棋世界』の編集長・田名後氏は今の盛り上がりについてこう語る。

「棋士の人間的な面白さに魅せられ、目を向ける人たちが増えてきたということです。彼らは一般のファンのように勝負のなりゆきに注目する一方で、あらゆる将棋イベントに足繁く通い、ひいきの棋士の話す言葉に耳を傾けたり、パーティーなどで棋士たちとの交流を図ったりと、さまざまな楽しみ方をしているようです。そういった“観る将”には女性の方も目立って多く、案外、彼女たちが人気を支えているのかもしれません。昔は一部の有名棋士にばかりスポットライトが当たっていたものでしたが、今では実績がまだ少ない若手棋士でも名前が広く知られるようになりました。それもやはりネットの影響が大きいのではないかと」 

 奇抜な髪型や衣装で注目され、副業として将棋バーを経営して話題となった“ハッシー”こと橋本崇載八段や、早くからブログを開設していた渡辺明竜王などをはじめ、こういった新しいムーブメントを意識して、積極的にネットで情報発信していきたいという棋士も増えてきているという。将棋連盟も、実際に対局をして楽しむ将棋ファン“指し将”や、観戦を主に楽しむファン“観る将”のどちらでも楽しめるような工夫をしている最中なのだとか。

 最後に、“観る将”も注目の若手棋士を教えてもらった。

「男性では中村太地六段が女性に人気ですね。近年メキメキと頭角を現してきた若手ですが、イケメンとしても有名です。女性では、わずか中学2年生でプロ入りし話題となった竹俣紅女流2級でしょうか。男性ファンの間では早くから美少女として注目されていました。実力も折り紙付きの二人なので、ぜひこれからの活躍に期待してください」

中村太地六段(左)、竹俣紅女流2級(右)
写真提供:将棋世界

 とにかく将棋界には若手ベテランを問わず、面白い人材がわんさかいる。ネットで彼らとの距離が縮まった今、“観る将”となって彼らを応援するものまた一興だ。

 

『将棋世界』編集部オススメ!“観る将”でも楽しめる将棋本 ベスト3

『将棋・序盤完全ガイド 振り飛車編』

『将棋・序盤完全ガイド 相居飛車編』(上野裕和)

将棋初心者の方でも分かりやすいと評判の名著。流れが追いやすいようにチャート式で説明されていたりするなど、とにかく丁寧なつくりとなっています。同じ“観る将”でも、この本を読んでいるのといないのとでは観戦の楽しさが大きく違うのではないでしょうか。

『升田幸三の孤独』(河口俊彦)

これまでの偉大な棋士たちのエピソードが知りたい!という方にオススメです。升田先生だけでなく、前・日本将棋連盟会長の米長邦雄永世棋聖など、異能派の棋士たちの対局外のエピソードや発言がふんだんに盛り込まれており、そのひとつひとつに胸が熱くなります。

『明日対局。』(渡辺 明)

月間60万PVを誇る渡辺明竜王の人気ブログをまとめたもので、一人の若手棋士がトップ棋士に上り詰めるまでの成長記としても楽しめるエッセイ集です。イラストはなんと奥様が担当(笑)。夫への微笑ましく愛情あふれるツッコミが満載の奥様ブログ(「妻の小言。」)と合わせて読むと面白さ倍増です。