「にゃんこ」「ミルリン」とは 意外すぎるタカラジェンヌの楽屋メシ

食・料理

公開日:2013/5/4

 「一見さんお断り」「会員のみ」……世の中には入りたくても入れないレストランがたくさんある。しかし、そんななかでも究極の“一般人は入れない”食堂がある。それが「すみれキッチン」だ。

 すみれキッチンとは、“タカラジェンヌとそのOGしか利用できない”宝塚大劇場の楽屋内にある社員食堂のこと。演出家の先生ですら入ることが許されない男子禁制の食堂で、ヅカファンならば誰もが知っている憧れの聖域だ。その味を確かめるにはタカラジェンヌになるしか道がないというハードルの高さもさることながら、あのきらびやかなステージに立つ彼女たちがどんなものを食べているのか──ファンでなくとも興味は多いに掻き立てられるはず。

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 が、ついにその味に迫る本が出版された。それが『愛と青春のすみれキッチン』(宝塚歌劇を愛する会:著、白ふくろう舎:イラスト/祥伝社) だ。これはOGたちから調査をし、その味をレシピに起こしたもの。「あくまで伝聞レシピ」というわけだが、とうとうタカラジェンヌの楽屋メシが明かされるとあっては、興奮は抑えきれない。やはり優雅に、オシャレなサンドウィッチにカフェオレなどを口にするのだろうか? それともマリー・アントワネットの台詞「パンがなければケーキを食べればいいじゃない」を地で行くスイーツ天国なのだろうか……? 

 しかし、ふくらむ妄想は無惨に打ち砕かれた。掲載されているレシピは、いずれもじつに家庭的かつ華やかさからほど遠い“庶民メシ”なのだ。

 たとえば、OGたちからのコメント集で思い出の味として数多く挙げられているのは、「にゃんこ」なる一品。ネーミングこそ愛らしいが、その実態は「前日の残りの味噌汁」を温め、ごはんにかけただけのものである。このほかにも朝ごはんは、キャベツの千切りの上にゆで卵をのせ、各自がマヨポンピリ(マヨネーズ、ポン酢、七味唐辛子)などで好みの味付けにする「タマゴサラダ」や、スクランブルエッグをごはんにのっけた「ふわふわ丼」、定番の「卵かけごはん」など、オカンの手抜き朝食のようなラインナップ。期待のスイーツも「タダリン」(ただのりんごを砂糖と水、氷とミキサーにかけたドリンク)に、「ミルリン」(タダリンのりんごをエバミルクに代えたもの)など、とてもシンプルだ。

 もちろん、主菜や副菜といった“タカラジェンヌのソウルフード”も同様で、クリームシチューをごはんにかけた「シチューがけごはん」に、ちくわにチーズとほうれん草を詰めてフライにした「ちくわのチーズフライ」、玉ねぎやにんじん、じゃがいも、ピーマン、しいたけといった野菜を煮た「野菜のごちゃ煮」など、実家ふうのメニューが並ぶ。

 だが、この気取りのないメニューこそが、すみれキッチンの魅力なのだろう。OGたちは一様に、「公演中の朝は、毎日すみれキッチンメニューでパワーアップしていました。すみキチオタクだったかも」(80期/毬穂えりな)、「すみキチのことは昨日のことのように思い出します」(82期/研ルイス)、「下級生の頃には、すみキチは憧れの場所でした」(85期/天野ほたる)、「すみキチのお姉さんたちの、お母さんのような雰囲気にいつも癒やされていました」(86期/青葉みちる)と、その思い出を語っている。

 このすみれキッチンの厨房に立つのは、タカラジェンヌたちから「ひとみちゃん」と呼ばれる女性。「ひとみちゃんの手料理が待ってる!」と励まし合い、公演を乗り切っていたと話すOGもいるほど、その人気は絶大だ。いわば、タカラジェンヌたちにとってすみれキッチンは第二の故郷の味、ひとみちゃんは母親のような存在だったのではと感じさせる。

 青春の思い出と愛情がたっぷり詰まったレシピ。タカラジェンヌを夢中にさせる味を、本書を片手にあなたも再現してみては?