多崎つくるは名古屋が嫌い? 名古屋の驚きの特殊性とは

暮らし

2013/5/4

 発売1週間で100万部を突破し、大きな話題を呼んでいる村上春樹の新作『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(文藝春秋)。ご存じの人も多いかと思うが、主人公・多崎つくると、同郷の友人たちを巡る物語だ。すでにいろいろな感想がネット上に溢れているが、目をひくのは故郷として舞台に選ばれている名古屋について。そう、村上の名古屋の描き方にも注目が集まっているのだ。

 作中では、「名古屋は規模からいえば日本でも有数の大都会だが、同時に狭い街でもある。人は多く、産業も盛んで、ものは豊富だが、選択肢は意外と少ない」という台詞だったり、「文化的な面をとりあげれば、東京に比べてうすらでかい地方都市という印象は否めない」という文章が登場。それでも大学進学時に名古屋に残ることを選んだ友人たちについて「それぞれに進む大学のレベルを一段階落として」と書くなど、“あえて”名古屋を選択する名古屋人気質についても言及しているともいえるだろう。

 こうした描写に対して、Twitter上では「イメージが自分の思ってるのと似過ぎてて、おかしくて読み進めない」「名古屋は日本の中のガラパゴスってか。なるほどって思った」といった声の一方、コラムニスト・作家の中森明夫が「名古屋自体の具体的な描写にとぼしく名古屋に対する偏見の観念で押しきってる」と評するなど、意見はさまざま。それだけ名古屋はほかの街とは違う、独特の都市ということなのかもしれない。

 そんな名古屋の特殊性がよくわかるのが、『名古屋ルール─名古屋ええよ! ライフを楽しむための49のルール』(都会生活研究プロジェクト「名古屋チーム」/中経出版)という本。本書によれば、同じように独自性をもつ大阪が「突出しがち」なのに対して、名古屋(人)は「突出しない」。「優越感と劣等感の両方」を抱きながら「静かに独自文化を謳歌」するという。

 では、その独自文化とは何か? たとえば、名古屋弁には“安心”を意味する「安気」という言葉があるらしいのだが、それが名古屋人にとっては「買い物の際の重要なテーマ」。その安気の基準は、ズバリ「ブランド」であるらしい。大阪人の“カブるのは嫌”という気質や、東京人の“ベタは無粋”という意識とは違い、「ブランドものだったら、とりあえず安心」が名古屋流。それゆえ、みんなが同じバッグを持っていても「気にすることはない」のだ。

 もちろん、学校にもブランドはある。「SSK」と呼ばれる名古屋の3大お嬢様学校「淑德・椙山・金城」のなかでも、とくに「金持ち度」が高いといわれる金城学院の場合、中学からの入学者を「純金」、高校からは「18金」、大学からは「金メッキ」と格付けされるというのだ。東京でも、慶應や青山学院などの有名校では同じように区別されることはあるが、「金メッキ」とはさすがに驚きの表現だ。

 また、『色彩を持たない多崎つくると~』には、「学校もずっと名古屋。職場も名古屋。なんだかコナン・ドイルの『失われた世界』みたい」という台詞が出てくるが、本書にも「就職するなら地元優良企業!」という項目がある。トヨタは言わずもがな、カゴメやメニコン、シャチハタ、日本ガイシといったメジャー企業が本社を愛知に置いていることから、地元就職率は高いらしい。そして「日本経済を支えてきた立役者」という自負心が名古屋人にあることも、地元での就職を選ぶ理由と無関係ではないのだろう。

 名古屋といえば、古くは、秀吉に信長、家康(三河出身)といった豪傑を輩出した地。そのプライドが、あんかけスパゲティなどの個性的すぎるメニューや、豪華すぎる結婚式といった独創的で奇抜な文化を生み出し、作り上げてきたのかもしれない。『色彩を持たない多崎つくると~』で名古屋に興味を持った人は、この『名古屋ルール』を併読すると、より名古屋を味わえるはずだ。