デブで何が悪い! flumpool「太りすぎ戦力外」騒動で考える

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更新日:2013/5/9

 映画『君に届け』の同名主題歌などで知られる4人組バンド・flumpool。ボーカルとギターを担当する山村隆太をはじめ、さわやかなルックスでも人気を集めている彼らだが、先日、驚きの発表を行った。なんと、ギターの阪井一生がダイエットのため“ビジュアル面”での活動を休止することになったのだ。

 公式HPの発表によれば、なんでもデビュー当時からメンバーや事務所よりダイエットをすすめられてきた阪井。しかし何度もリバウンドを繰り返してきたそうで、「ロックバンドらしからぬ姿になってしまった」という。阪井は6月末まで64㎏台までの減量を目指し、一方で阪井のヘルプとしてギタリストを募集。顔が似ていることやギターができることのほか「ジャケットを着こなしている方」「ボケ役もツッコミ役もこなせる方」などの条件が挙げられている。

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 このニュースに対し、“ビジュアルの良さも求められるバンドだから致し方のないこと”という受けとめる向きもあるが、芸能界に限らず一般社会でも“太っていると生きづらい”世の中になりつつある。アメリカでは「肥満が職場での評価を下げる効果がある」という調査結果もあり、実際に太りすぎを理由にペナルティを課す企業も。日本でも“肥満は就職に不利”といわれ、就活対策としてダイエットを行う学生も多い。企業の責任としてメタボ対策が求められる今、非肥満の社員にはその費用がかからないという利点もあるのかもしれないが、それだけでなく“肥満=自己管理ができない甘えた人”というレッテルもあるのだろう。

 しかし、健康リスクの問題はあるとしても、肥満体、いわゆる「でぶ」であることは、それほどにいけないことなのだろうか。でぶの歴史をまとめた『でぶ大全』(ロミ、ジャン フェクサス:著、高遠弘美:訳/作品社)には、社会からのレッテルにも負けず、でぶを謳歌した人物たちが登場。でぶで何が悪い! という生き方が数多く紹介されている。

 たとえば、フランスの喜劇役者・サンヴィルは、「太れば太るほど人気が出た」役者。当初は痩身で華奢だったが、「恋する男役」「内気な恋人役」といった役柄を演じるために、さらに断食したり青白い顔をキープしたりと苦労も多かった。が、成功をおさめると同時に、過労と栄養失調で病気に。「健康のことを考えれば、そんな役はもうやめるべき」と考えた彼は、これまでの反動で「際限なく呑み食い」。当然ながらすぐに太ったが、そのことで気持ちもおおらかになったのか、それまで以上に快活で説得力ある演技で大衆の人気を集めたという。このサンヴィルの生き方は、「痩せなくては」という強迫観念から解放され、太ることで自分らしさを獲得した好例ではないだろうか。

 また、イタリアの作曲家・ロッシーニは、美食と女遊びを楽しみに生活を送っているうち、でっぷりと太ったそう。が、そこでモテを意識してダイエットしないところがさすがは大物というべきか、名声の絶頂にあった30代後半に“今後はもうマカロニ料理を作ることしかしない”と宣言! その後、前言を翻すこともなく、美食三昧の人生を送った。ちなみにロッシーニが考案したマカロニ料理は、マカロニの穴1本1本にフォアグラやトリュフ、バター、パルメザンチーズなどを混ぜたものを詰めるという、常人には気の遠くなるような一品。この料理のために銀製の注射器を特注したという逸話もあるほどで、食べること、つくることが大好きな人にとっては、これほど羨ましい人生もないはず。

 もちろん、本書は肥満によって差別にさらされたケースや、つきまとう「善人」「歌が上手い」「コミカル」といった偏見についても語られているが、翻訳者のあとがきにも書かれているように、「現代のあまりに狭量な痩身志向の毒消し」としては最適な1冊。「でぶ」は蔑視表現の言葉ではなく“生命賛歌の別名であった”というが、そのことの意味を、いま一度考え直すのも必要なのではないだろうか。