猪瀬都知事の「都バス24時間運行構想」から「日本のバス」の歴史と現状を考える

社会

更新日:2017/6/29

 先月、東京都の猪瀬直樹知事が、年内にも六本木~渋谷間を走る都営バスの24時間運行をスタートさせる意向を明らかにした。これは政府が規制緩和を実施する「アベノミクス戦略特区」(高度規制改革・税制改革特区)を創設する方向で検討に入ったことがきっかけで、猪瀬知事は会見で、グローバル化に対応できる交通体系が必要であるということ、そしてニューヨークやロンドン、パリ、ベルリンなどでは24時間バスが運行していて、東京が世界の都市に後れをとっていることなどを理由としてあげた。

 日本のバスの歴史が始まったのは、いつのことなのだろうか?

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 交通ジャーナリストの鈴木文彦氏による『日本のバス―100余年のあゆみとこれから』(成美堂出版)によると、それは今から110年前の1903年9月20日、京都の堀川中立売~七条~祇園間で定期運航バスが走ったことが最初だという。 2009年現在、路線バス(乗合バス)は1453事業者、貸切バスは4392事業者あり、乗合バスは2002年に参入が自由化、さらに2006年に道路運送法が一部改正されたことで事業者が増え、観光バスなどの貸切バスの事業者は2000年に参入規制が緩和され、こちらも増加中だという。バスに分類されるのは「乗車定員11人以上の普通自動車」であることだそうで、現在日本で走っているバスの台数は全部で約23万台あるそうだ。

 本書では、日々の暮らしを支える路線バスや、観光バスなどの歴史、バスの運営や運行のしくみ、使われる車両、最近増えているコミュニティバスの現状など、バス業界を取り巻くあらゆることが取り上げられている。またカラーの口絵には「最新バス車両ラインナップ」として、用途・タイプ別に現役の新しいバスを71車種も掲載していて、2台がつながった連節ノンステップバスや水陸両用バスなど珍しい車両まで紹介されている。ちなみに日本のバスは納入先ごとの発注内容に合わせて細かく仕様が分かれるオーダーメイドのため、一台一台ほぼ手作業で作られていて、その需要は国内のみ(マイクロバスやエンジン・シャーシなどは輸出されている)という特殊な車だそうで、路線バスに多いワンマン仕様の大型ノンステップバスで1台あたり2200万円前後となかなか高額なのだ。

 そんな、日々当たり前に走っていると思いがちなバスだが、2000年代へ入ってから事業者の経営破綻が目立ってきているという。バス事業そのものを取り巻く環境の悪化もあるが、地域の独占企業であるバス会社はぬるま湯につかったような経営状態で、しかも日銭の入る業種だけに銀行の信用もあり、融資で観光などの関連事業や不動産に手を広げたツケが来て破綻、というケースが多いのだという。現に先日も大阪市バスを運営する大阪市交通局が、市バスの車庫跡地に開発した商業ビルの経営破綻をめぐって信託銀行から負債約276億円の補償を求められ、大阪市の橋下徹市長は、市の支払いが確定した場合は市民税で補填するという考えを明らかにした上で、バスの民営化を視野に入れていることを会見で述べている。このように公営バス事業は、運営を民間に任せる民営化傾向が加速しているのが現状だ。

 しかし約40年間バス業界を見てきた鈴木氏は、地域交通は「公」が関与しなければ維持できない時代に入りつつあるという。しかし民営化するかどうかなど、公営バスの行方は最終的に首長の考え方によるところが大きいのだそうだ。猪瀬知事がぶち上げた「都営バス24時間運行」、路線は拡大するのだろうか? その動きは全国へ波及していくのだろうか? バスの歴史に新たな1ページが刻まれるのかどうか、注視したい。

文=成田全(ナリタタモツ)