芸人と主婦を行き来する、清水ミチコの爆笑エッセイ

芸能

更新日:2013/5/18

 あなたは誰かにモノマネをされた経験があるだろうか? だいたいその反応は「全然似てない」「私はそんなこと言わない」など否定的で、自分に似ていると肯定的に捉えられる心の広い人は少数派だろう。しかし他の誰かがモノマネされた場合には、「そうそう、◯◯ってそういうこと言いそうだよね」「その仕草、やってるやってる!」などと笑ってしまう人が多い。それは、自分で自分のことを客観視できないこと、そして「自分はそんなはずじゃない」という自意識が邪魔することが原因だ。

 モノマネの第一歩、それは客観的な「観察眼」にある。その人をその人たらしめている大きな要素、声色や表情、仕草を観察することはもちろんだが、その人が意識していない部分、口癖やリズム、思考の組み立て方などをエッセンスとして注入することによって、「そういうことを言いそう」というモノマネが成立するのだ。しかしモノマネというのは、エッセンスを濃くするほど戯画化し、やればやるほど煎じ詰められて、モノマネの対象者からかけ離れ、新たな人格を持つ。そうなるとモノマネを見た本人から嫌われてしまうという、ある俳優とモノマネ芸人みたいな事態になってしまうのだ(誰とは言わないが)。

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 しかしモノマネをしても本人に否定されないどころか、仲良くなってしまうという稀有なモノマネ芸人がいる……それが清水ミチコだ。松任谷由実、桃井かおり、大竹しのぶ、平野レミなどをレパートリーとし、歌マネをする矢野顕子や森山良子のコンサートにはゲストとして出演、黒柳徹子をゲストとして迎え、黒柳徹子のモノマネで『徹子の部屋』をやるなど、普通のモノマネ芸人の域を超えた活躍をしている。なぜそんなことができるのか……それはモノマネをする人への「愛」が根底に流れているからだろう。そして愛しすぎるがゆえに毒がまわる、というねじれ現象が笑いを生んでいるのだ! ……いや「♪おっかないね、ゴリラ~」と揶揄するモノマネをする田中眞紀子は愛じゃない? あ、ユーミンには「山田邦子のモノマネには愛を感じるが、清水ミチコのモノマネには悪意を感じる」と言われてたっけ……。

 そんな(?)清水が、雑誌『TVBros. (テレビブロス) 』(東京ニュース通信社)に2006年から2012年まで連載したコラムをまとめたのが『主婦と演芸』(幻冬舎)だ(それ以前のものは『私の10年日記』(幻冬舎)としてまとめられている)。本書には黒柳徹子、平野レミ、フジコ・ヘミングといった「大好物」が目の前に並び、その姿を虎視眈々と狙っているモノマネ芸人「清水ミチコ」と、普段の生活の主婦「清水美智子」(なぜ「美智子」という名前になったかは本書で明らかに)として出会った妙な人について言及するという、芸人と主婦を行ったり来たりしながら、普通の人なら出会えないようなこと、そして普通は見逃してしまうネタにまでツッコむ毎日が活写されている。

 中でも印象的だったのが、学生時代に同級生のモノマネをしていたというエピソードだ。友人に言われるまでまったく記憶になかったという清水だが、一緒に帰ろうと呼ぶ友人の「ミーッチコーオオー!」という声で、平穏だった教室の中が急にゴージャス感を帯び始めるという妙な光景を思い出すことになったそうだ。このエピソードと彼女のモノマネレパートリーから考えてみると、清水ミチコのモノマネというのは「平穏な空気が乱れる」というポイントが重要になっているのではないだろうか?

 現在全国をツアー中の『清水ミチコのお楽しみ会2013』は、7月19日の渋谷公会堂で終了予定だそうだ。生で彼女の「愛」と「毒」にやられたい人は、『主婦と演芸』を熟読の上、ぜひ会場へ!

文=成田全(ナリタタモツ)