「お父さんはパイ」だけじゃない! 本当は怖いピーターラビット

文芸・カルチャー

更新日:2020/3/7

『ベンジャミンバニーのおはなし』(ビアトリクス・ポター:著、いしいももこ:訳/福音館書店)

『ベンジャミンバニーのおはなし』(ビアトリクス・ポター:著、いしいももこ:訳/福音館書店)

 今も世界中の子どもたちに愛されているピーターラビット。そんなピーターラビットの日本公式サイトが5月1日にオープンしたのだが、ネットでは「お父さんの紹介がひどい」と話題になっている。公式サイトのキャラクター紹介を見てみると、「ピーターのおとうさん」と書かれたところにあるのは、なんとパイのイラスト! さらに、説明にはご丁寧に「マクレガーおくさんにパイにされた」と書かれているのだ。かわいらしい絵柄に似合わず、意外と恐ろしいエピソードがたくさんあるピーターラビット。そこで、他にもいくつかの怖い話を紹介しよう。

 まず、意外と過激な登場人物が多いのもこの作品の特徴。『ベンジャミンバニーのおはなし』(ビアトリクス・ポター:著、いしいももこ:訳/福音館書店)では、服を奪われたピーターといとこのベンジャミンがマクレガーさんの畑に服を取り返しに行くのだが、その帰りに天敵であるネコに遭遇してしまう。たまたま近くにあったカゴに身を隠して一命を取り留めたと思いきや、ネコはカゴの上に座り込んでしまうのだ。そこへ、帰りの遅いベンジャミンを心配した父親がやってきて、なんと突然「ねこのうえへ大きくじゃんぷすると、かごからたたきおとし、おんしつのなかへけりこみ、毛をひっつかんで、ひとにぎりむしりとって」しまうのだ。いくら息子を助けるためとはいえ、ここまでするか? と思ってしまう。また、『2ひきのわるいねずみのおはなし』には、人形の家にある作り物の料理に惹かれたネズミが登場するのだが、あまりにも皿から取れない料理に腹を立て「ハムをへやのまんなかにもってくると、火ばさみやシャベルでめちゃくちゃにたたきのめしました!」と書かれているのだ。さらに、『りすのナトキンのおはなし』では、あまりにもしつこくなぞなぞを出してくるナトキンに怒ったふくろうが、彼をつかまえ「しっぽをもってぶらさげ、かわをはごうと」する。それをなんとか逃れたナトキンだったが、このときしっぽがちぎれてしりきれしっぽのリスがうまれてしまったのだ。

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 そして、パイにされてしまったお父さんをはじめ、動物たちが料理される描写も多い。『ひげのサムエルのおはなし』にはとくにそういった話が多く、序盤からネコのタビタおくさんがサラっと「わたしおかってで、ひとつのあなから小ねずみを7ひきもとったことがありますよ。このまえの土よう日のばんごはんにしましたけど」となんでもないことのように切り出す。そうかと思えば、逆にタビタおくさんの息子であるトムはネズミの巣に落ちてねこまきだんごにされてしまうのだ。トムは、なにがなんだかわからないうちにネズミの手によって「上着をはがされ、くるくるまきにされ、ひもできっちりしばられて」しまう。そして、ネズミたちは「バターをなすりつけ、それからねり粉でつつみ」、めん棒を使って伸ばしていくのだ。淡々とだが、料理していく過程を細かく描写されているのがなんとも恐ろしい。さらにきわめつけは、生地に包まれめん棒で伸ばされていくのを恐怖に怯えた顔で見つめるトムの表情だろう。本来なら自分が食べるはずのネズミに捕まり、今にも食べられそうになっているのだ。子どものときにこんな経験をしてしまったら、トムがネズミを怖がるのも仕方がない。

 さらに、それらとはまた違った怖さを与えてくれるのが『こわいわるいうさぎのおはなし』だ。この話には悪いうさぎと良いうさぎが出てくるのだが、悪いうさぎは良いうさぎのにんじんを横取りしただけでなく、とてもひどくひっかいた。その後、偶然やってきた猟師が鉄砲でわるいうさぎを「ずどん!」と撃つのだが、猟師が急いでベンチに駆け寄ると、そこには耳と尻尾とにんじんだけが…。ふわふわのしっぽと耳とにんじんだけが描かれた挿絵は、かなりショッキングなものがある。子どもの頃にこれを見ていたら、なかなか忘れられないかもしれない。

 でも、こういった自然界の掟や少々厳しい現実をきちんと描いているのもピーターラビットの魅力のひとつ。大人になった今、もう一度読み返してみたら、子どものときには気づかなかった新たな魅力を発見できるのでは?

ピーターラビット®日本公式サイト
http://www.peterrabbit-japan.com/