プロレスラー・小橋建太をもKOした小さな「腎臓」の大きな「働き」

健康

更新日:2014/4/28

  鉄人と呼ばれたプロレスラー小橋建太が5月11日、46歳で現役を引退した。25年のプロレスラー人生最後の試合では得意のチョップを連発、ラストはムーンサルトプレスによるスリーカウントで有終の美を飾った。ヒザに爆弾を抱え、度重なる故障で満身創痍だったが、壮絶なトレーニングと不屈の精神で乗り切った小橋選手。しかしレスラー人生最大のピンチは「腎臓がん」だった。39歳のときに右腎臓に腫瘍があることがわかり、すべて摘出。鉄人をして「プロレスができなくなってしまうのかと思った」というほど苦しい1年半以上の闘病生活とリハビリを経て復帰したが、身長186センチ、体重115キロという屈強な小橋選手の動きを止めた腎臓とは、どんな働きをするのだろうか? 『腎臓のはなし 130グラムの臓器の大きな役割』(坂井建雄/中央公論新社)を見てみよう。

 腎臓は背中側の脊柱を挟んだ両側にひとつずつ、肋骨で半分隠れるくらいの位置にあり、左右は同じ高さではなく、肝臓のある右側の方が左より少し下に位置しているそうだ。形はそら豆に似ていて、それぞれが約130グラムという小ささだが、血液から水分や老廃物を濾過し、尿を作るという大切な働きをしている。これは体液の量と成分バランスを保つための大切な役割なのだ。

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 腎臓内部には毛細血管が絡まり合って糸玉のような形になっている直径0.2ミリほどの大きさの「糸球体」というものが約200万個あり、これが毎分100~150ミリリットルの尿を血液から濾過している。これは1日あたり約200リットルもの尿を作っていることになるが、作られた尿の99%以上は再吸収され、血液に戻っていく。これほど大量に濾すのは、機能を微調整することで尿の量をすぐに変えられるようにしているためだ。1を2にするには仕事量を倍にしないといけないが、再吸収量を99%から98%にするだけで尿の量は倍になる。ビールを大量に飲んだら体内の水分量はおかしくなるが、腎臓は慌てて働くのではなく、微調整だけですぐに余分な水分を外へと排出するという理想的な働き方を普段からしているのだ(社会人として見習いたい働き方!)。

 しかしこの糸球体を作る細胞、他の臓器と違って細胞分裂をしないという特徴がある。つまり一度壊れて機能が損なわれると、二度と修復できない繊細な臓器なのだ。腎臓は20歳くらいまで成長し、その後50歳くらいまでは重さが安定しているが、60歳を過ぎる頃から急に重さが減り始め、80代では40歳頃に比べてなんと30パーセント程になってしまうという。これは糸球体が壊れて硬化してしまうのが原因で、腎臓というのは加齢とともに少しずつ壊れていく臓器なのだ。もしも腎臓の機能が損なわれたら……今から50年程前、それは死を意味していた。しかし今では機械を使って不要な物質を排出することができる人工透析がある。しかし週3回、毎回3~5時間かけて行う人工透析は時間的な拘束や食事制限、合併症のリスクなどを抱えることになる。

 2つあることから、健康な人から生体腎移植が可能なのも腎臓の特徴だ。ラットの実験では片側を切除し、さらにもう片側を3分の2切除しても普通に生きていくことができるというが、腎臓が2つ必要なのは、尿の量と成分を変えやすくするためであり、壊れて再生できないことを見越しての「余裕」のためなのだ。慢性腎臓病は生活習慣病やメタボリック症候群と密接な関係があるといわれ、また高血圧や糖尿病の悪化も腎不全を引き起こす場合もあるという。アメリカのマサチューセッツ総合病院ではラットの実験で人工腎臓を作り出したというが、再生医療はまだまだ実験段階。小橋選手よりも非力な一般人は、健康に留意して、少しでも腎臓を長持ちさせたい。

文=成田全(ナリタタモツ)