闇の世界史を読み解く! 史上、最も残虐な大量殺戮とは?

社会

更新日:2017/7/28

  学生時代、世界史や日本史の年号と出来事を覚えるのが苦手だったという人は多いだろう。しかし不思議なもので、大人になると「歴史物」が好きになったりするものだ。東大生に売れている本として紹介された『世界史』(ウィリアム・H・マクニール著/増田義郎、佐々木昭夫:訳/中央公論新社)がベストセラーになったことも記憶に新しいが、とにかく勉強で覚える「歴史」というのは、事象や出来事を固有名詞としてぶつ切りに覚えるので嫌になってしまう。しかし歴史を大きな流れとして捉え、様々な技術の進歩や文化・宗教の拡散など、各々が有機的に絡み合って時代が進んでいくダイナミックさを知ると、その壮大さに驚き、面白さにのめり込んでしまうものだ。

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 そんな人類の歴史で避けられないのが「戦争」と「殺戮」だ。シリアでは内戦が続き、朝鮮半島情勢が緊迫するなど、今も世界中で争いが起こっている。では歴史上で誰が一番人を殺したのか、どんな出来事が人類の厄災となったか……これは歴史好きなら誰しも一度は考える問題だろう。

 その問題を丹念に調べた人がいる。それは歴史学者ではなく、アメリカのヴァージニア州リッチモンドの連邦裁判所の図書館で働く司書、マシュー・ホワイトだ。「20世紀アトラス」というウェブサイトを主宰する歴史愛好家であり、無類の統計学好きという男性で、初著作である『殺戮の世界史 人類が犯した100の大罪』(住友 進:訳/早川書房)では、統計学の知識と司書で培われた情報を検索し取捨選択する能力、豊富な読書体験がバックボーンとなっているであろう巧みなストーリーテリングと膨大な参考文献を駆使し、「人類による殺戮」をテーマとして歴史を独自に読み解いている。2011年に本書がアメリカで発売された際には、『ニューヨーク・タイムズ』で取り上げられるなど話題となったそうだ。

 まず人類が犯した100の大罪をリストアップし、それらを起きた年代順にまとめ、信頼できる資料から調べた「死者数」、100の大罪の中での「ランク」、覇権戦争や国家の滅亡などの「種類」、誰が戦ったのかの「対立」、そして「期間」「場所」、争いを引き起こした「最大の責任者」などの項目で分け、様々な資料からの引用を交えて背景を説明し、公平無私な態度から見解を述べている。総ページ数735ページ、重量約1キロという分厚い本だが、個別の出来事の他に「スターリンとヒトラー:ひどいのはどちらか?」など興味深い考察ページもあって、 学術書のような四角四面な内容ではなく、シェイクスピアなど多くの本からの的確な引用もあって、とにかく新鮮な発見が多く、読んでいて飽きない。教科書ではたったひと言だけの記述だった出来事が、急に色彩を帯びてくるかのようだ。

 そしてホワイト版「残虐な大量殺戮トップ10」は以下の通りだ(括弧内は死者数)。

1位 第2次世界大戦(6600万人) 2位 チンギス・ハン(4000万人) 2位 毛沢東(4000万人) 4位 英領インドの飢饉(2700万人) 5位 明王朝の滅亡(2500万人) 6位 太平天国の乱(2000万人) 6位 ヨシフ・スターリン(2000万人) 8位 中東の奴隷貿易(1850万人) 9位 ティムール(1700万人) 10位 大西洋の奴隷貿易(1600万人)

 「たったひとりの死は悲劇であるが、100万人の死は統計の問題である」とはスターリンの言葉といわれているが、ホワイトはそれにも疑問を投げかけ、ドイツの作家エーリッヒ・マリア・レマルクがこの言葉を先に使っていると指摘している。しかし誰が言ったにせよ、その言葉の意味はとても重い。もうこれ以上「100の大罪」に新たなリストが加えられないことを願ってやまない。

文=成田全(ナリタタモツ)