史上最悪の朝ドラヒロインを生み出した、モンスター級の毒母

芸能

更新日:2013/5/28

 視聴率20%越えが続くなど、絶好調のNHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』。脚本家であるクドカンならでは笑えるセリフの数々、80年代小ネタ、元アイドル・小泉今日子の歌、脇を固める芸達者な役者たち……さまざまな魅力があるが、やはり大きいのはヒロインのアキを演じる能年玲奈のフレッシュな魅力だろう。朝ドラのヒロインといえば、これまでも『純情きらり』の宮崎あおい、『ゲゲゲの女房』の松下奈緒、『ひまわり』の松嶋菜々子など、数多の女優を輩出してきた“清純派”の登竜門だ。

 しかし、かつて、「史上最悪な朝ドラ・ヒロイン」として問題行動を起こしていた女優をご存知だろか? それは、現在バラエティ番組で「男が好き」「デート=セックス」など大胆な発言で知られる、遠野なぎこだ。自伝的小説『一度も愛してくれなかった母へ、一度も愛せなかった男たちへ』(ブックマン社)では、清純さが求められる朝ドラヒロインの真実が語られ、読者に衝撃を与えている。

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 子役出身で、一度は女優を休業していた遠野。オーディションによって朝ドラ『すずらん』の主役を射止めるが、彼女を待っていたのは、朝ドラヒロインとしての重圧。ヒロイン修行として所作を習ったり、楽屋に帰る暇がないといって楽屋を用意されないという慣習だったり。もちろん男性との付き合いはご法度。

 にもかかわらず、遠野は付き合っていた男性と海外旅行に行ったり、トイレでタバコを吸ったり、所属事務所の社長に「歴代ヒロインで、こんなに私生活が乱れていた女優はいない。史上最悪だ!」と言われるほど。そんな悪行を繰り返す遠野をマスコミから守るため、慣例を破り、初めてヒロインに個室が与えられる。しかし、遠野はそれすら目当ての男と2人っきりになるために利用したという。

 何がそこまで遠野を男性へと走らせるのか。そのウラにあるのは、遠野の母親の存在だ。18歳と若くして遠野を身ごもり女優としての夢を捨てた母は、幼いころから遠野を「醜い」と呪い続けていた。運動会では参加しないどころか弁当すら作らず、繰り返される暴力や育児放棄・ネグレクト。実父と離婚し、2番目の夫と住むと、遠野に義父と一緒の入浴を強要する。そのとき、遠野は小学校6年生。成長期に入り、体にも変化が起こってくる時期にこの仕打ちはむごい。

 16歳になり、太り始めた遠野には「吐けばいいのよ」「食べた後に白湯を飲むと、もっと吐きやすくなるのよ」と進める。こうやって遠野は摂食障害に陥る。摂食障害は場合によっては一生付き合っていかなければならない病気だが、驚くべきことに、実は母親自身も摂食障害で、苦しみを十分に理解しているのに娘をその道に引きずり込んだのだ。

 母親と暮らすことに限界を感じた遠野はひとり暮らしを始めるのだが、やがて恋愛におぼれていく。「君がいなければ、僕は生きていけない」と言われれば、「誰かから必要とされることってこんなにも安心することなんだ」と安心感を得る遠野。しかし、それは母親から無視されていた過去を癒やすだけで、結婚した相手でさえ、最後の最後では愛せずに、傷つけあって別れる。

 離れていても常に母親の影響を感じ始めた遠野は、死を願うようになる。実行を決意したとき、あることに気づく。「いまここで死んだら、母の思うツボだ」。もともと女優志望で注目されることが大好きな母が、自分の「死」さえネタにして大げさに振る舞い同情を集めることに苦心する姿を想像し、最高の復讐は生きることと覚悟を決めた。

 本書では終盤にかけ、母の呪いから解き放たれた遠野の前向きな姿勢が描かれている。それでも今でも一方的に出演する番組の一覧をメールで送りつけ、「気づけば私はいつも、母のことばかり考えている」「おそらく、彼女が死んでもそれ変わらないだろう」と本音を漏らしている。子の一生に大きな影を落とすモンスター級の毒母。いまや大きな関心を寄せられているこの問題、母と子どもそれぞれをどうケアすべきか考えるためにも、本書で現実を見つめなおしたい。