「キター!」も採用! 最新国語辞典のつくり方がすごい!

文芸・カルチャー

2013/6/1

 2012年の本屋大賞を受賞し、映画化もされた三浦しをんの大ヒット小説『舟を編む』(光文社)。この作品には、出版社で辞書づくりに没頭する変わり者の編集者たちが登場するが、じつは実際の“辞書づくりの現場”も、小説や映画もビックリするほど、おもしろい世界なのだ。

 4月に出版された新書『辞書を編む』(飯間浩明/光文社)は、『三省堂国語辞典(サンコク)』の編集委員である著者が辞書編纂の舞台裏を“惜しみなく公開”。数限りなく世間に溢れる言葉ひとつひとつに情熱を傾ける様子が伝わってくる1冊だ。

 たとえば、編纂者たちは辞書の改訂作業がはじまる前から「ことばの用例」を採集。1967年生まれの男性である著者は、普段は読まない女性向けファッション誌『non‐no』(集英社)を手に取り、気になった言葉をチェックする。このとき「国語辞典の項目や用例として載せてもいいかと思った語」は、「家飲み」「カチューム(カチューシャに見えるヘアバンド)」「タジン(鍋)」「チラ見」「プチプラ(=プチプライス)」といったものだったそう。「家飲み」「チラ見」あたりは知っている人は多くても、「カチューム」は流行に敏感な女性でなければ認知度は低そうな言葉。もちろん、これは掲載されるかどうかの判定が下される以前の話だが、辞書に書いてあれば、おじさんにはありがたい話ではある。

 また、人の会話やテレビで使われている言葉も重要な採集対象だ。バスの車中で聞いた「黒染め」(茶髪を黒く染め直す)という言葉はすかさずメモ。『ハートキャッチプリキュア!』に登場した台詞「あんたなんかより1億万倍強い!」の、「1億万倍」という表現も「貴重な一例」としてチャプターボタンをオン。落ち着かない日常のようにも見えるが、本人はいたって楽しそうだ。

 こうして集められた言葉は、最終的には編纂メンバー全員で掲載するか否かを判定するのだが、この会議の模様も興味深い。その一例が「スイスロール」だ。「スイスロール」といえば、「超ハイカロリーケーキ」としてネット上でも有名なロールケーキの一種。この言葉を載せるべきという編集委員の声に対し、著者は「これを載せると“チョコロール”“いちごロール”など、すべて載せなければならないでしょう」と抵抗。しかし、推薦者は折れない。ロールケーキがクリームを巻き込む構造である一方、スイスロールは「クリームやジャムの層がごく薄い」ことを主張するのだ。結果、スイーツに詳しい推薦者の判断に従い、『三国』第7版で「スイスロール」は見事に国語辞典デビューを果たしたという。

 さらに、いままであった言葉も、時代によって使われ方は変化するもの。たとえば、「キター!」という言葉も、「来る」に助動詞「た」をつけた「来た」という項目として新たに追加。「きた(連語)」の語釈には「(2)期待していたものが登場した。ほしかったものが手にはいった。「新人王来たー![『キター!』とも書く]」と記載されているそう。掲示板で使われはじめたネット用語も、言葉の広がりによってこうして歴史に残る言葉になっていくのかと思うと、感慨深いものではないか。

 あるときはカピバラの語釈に活かすために上野動物園までカピバラ観察へ出かけ、またあるときは「プログレッシブロック」の語釈をまとめるためにキング・クリムゾンやピンク・フロイドなどを片っ端から視聴する著者。自分の目や耳で感じた上でみんなに伝わる言葉にするという、この途方もなく地道な作業を知ると、辞書のとらえ方も変わるはず。本書のあとは、サンコクを読み込みたくなること必至だ。