映画『大奥 ~永遠~ [右衛門佐・綱吉篇]』に見る、大いなる母の影響とは?

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更新日:2013/8/13

映画『大奥 ~永遠~ [右衛門佐・綱吉篇]』に見る、
大いなる母の影響とは?

大奥

 さて、昨年末に公開された映画 『大奥〜永遠〜 [右衛門佐(えもんのすけ)・綱吉篇]』(DVD&ブルーレイは6/8発売)は、そうしたグレート・マザーの威力をじわり実感させてくれる作品といえるだろう。これまでもドロドロ陰謀劇の舞台に繰り返し描かれてきた「大奥」を、「将軍が女、大奥に仕える者たちが男」というまさかの男女逆転設定で描き、大きな話題となったよしながふみの人気漫画の実写化シリーズの最新作だ。つい設定の珍しさばかりに注目してしまいがちだが、本作の根底には母の(見えない)影響力がちらりと顔を出し、物語をぐっと奥行きのあるものにしている。

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 物語の主人公は五代将軍・徳川綱吉(菅野美穂)で、三代将軍・家光の四女にあたる。綱吉の幼少期は特に描かれてはいないが、母は5歳の頃他界し(とはいえ当時の育児は乳母が担当するのが慣例で現実的接点はあまりない)、むしろ実父である桂昌院(けいしょういん/西田敏行)がべったりつきそっていたようだ。実母の直接的な影響は受けずに育ったとはいえ、桂昌院や周囲の者が名君たる母の偉功を話して聞かせたこともあったろう。綱吉の中に遠い「憧れ」の存在として母を慕う気持ちが自然に芽生えたものか、あるいは遺伝子のなせるわざか、母と同じように学問に励み、政治の面でも辣腕をふるう。

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 物語は、そんな綱吉のための「大奥」に、御台所(宮藤官九郎)に招かれて京都から公家出身の右衛門佐(堺雅人)が上がることからはじまる。当時の綱吉は桂昌院の息のかかる伝兵衛(でんべえ/要 潤)との間に松姫を生んだのみで、御台所の手の内からも世継ぎを出そうとの策略が渦巻いていたのだ。右衛門佐はすぐに綱吉の興味を惹くが、側室の年齢制限を理由に側室入りを断念させ、まんまと大奥総取締役につくのだった…。

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 さて、この雅な京男・右衛門佐についつい綱吉が惹かれてしまうというのが、実は母の無意識の影響ともいえる大きなポイント。なんと右衛門佐は若き日の桂昌院の上司かつ母・家光の最愛の男である雅な京男・有功(ありこと)に生き写しなのだ。もちろん綱吉自身は有功の存在など知らないわけだが、まるで遺伝子レベルでプログラミングされていたかのように、同じように京男(しかもソックリさん)に一目惚れしたというわけ。しかも皮肉なことに「結ばれぬ運命」を辿るのまで同じだったりする(本編ではそうした気配はあくまでチラリだが、家光と有功を描いたTVドラマを見ていた人は思わずニヤリとするハズ。なにせドラマで有功を演じたのも堺雅人だったのだから)。

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 ちなみに綱吉の実父・桂昌院もかつては京出身の美青年(玉栄(ぎょくえい):田中聖)なわけで、それを考えると京男好きは、溺愛してくれた父の影響も強いのかも。事実、桂昌院が稀代の悪法「生類憐れみの令」を発令するのだが、綱吉は疑問に思っても父を大事にする思いから狂態を制することができずにいる。ある意味「重度のファザコン」なわけだが、とはいえ敵ばかりの江戸城にあって、父だけが常に傍にいて絶対的な味方でいてくれる唯一の「男」だったわけで、父と同じ気配を漂わせる京男がタイプなのも自然のなりゆきでもあったのだろう。

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 作中、忙しい公務の合間を縫って、できるだけ娘の松姫と接する時間を持とうとしていた綱吉の姿も、いじましく印象に残る。その睦みあいに亡き母への想いを重ね、どこか自分の幼少期を取り戻すかのような思いもあったのだろうか。

 不幸なことにその後、綱吉は松姫を病で失い半狂乱になる。子を失った悲しみはもちろんだが、それが「世継ぎを産む」という重責をわかちあえる「娘」であったことも、また格別の喪失感だったのかもしれない。だが悲しみに浸る間もなく、世継ぎをなすために大奥での夜の営みを続ける綱吉。どこかに心の核を置き忘れたようなその姿は、運命とはいえ痛々しく悲しい。

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 そしてとうとう、すっかり若さも失い運命の闇に押しつぶされそうになった綱吉の心に、長らく陰ながら見守り続けてきた右衛門佐が、ついに「愛」という名の大輪の花をさかせることになる。そのドラマチックな展開は見てのお楽しみとして、なるほど、本当の愛というのは、ずっと一緒にいた「つながり・絆」から生まれるものなのかと、妙に納得させられる(なにせ大奥では若いイケメンと一夜の恋に落ち放題。それでも古参の右衛門佐が一番だったのだから)。

 実は今回のアンケート、「女の人生でズバリ大事なもの」についても聞いたのだが、既婚者の大半からは「パートナーや家族、子供」といった、ずっと一緒にいる「つながり・絆」を意識した答えを得た。そういえば、この映画の撮影中にずっと一緒だったことがきっかけで、主演の菅野美穂と堺雅人がリアルで結婚したおまけまでついたわけだし、やっぱり人生で大事なものは「じっくり」育まれるものということか。 

 ちなみに、未婚者の第1位はズバリ「お金」と、ある意味でリアル。いずれ運命の誰かと向き合った日には、そんな答えも変わっていくのかもしれない。

文=荒井理恵

交錯する運命に翻弄された男と女究極の愛こそが、全てを変える

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 男女逆転の世が誕生して30年。時は元禄、五代将軍綱吉(菅野美穂)の時代。徳川の治世は最盛期を迎えていたが、大奥では後継者を巡って正室と側室の激しい派閥争いが起こっていた。そこに、京から一人の公家がやってくる。その男・右衛門佐(堺雅人)は類まれなる野心と才覚で巧みに綱吉に取り入り、総取締として大奥での権勢を掌中に収めていく。

 一方、一人娘の松姫を亡くした綱吉は、政から遠ざけられ世継ぎ作りに専念させられることに。だが、夜ごと大奥の男たちと閨をともにするも一向に懐妊しない綱吉は、次期将軍の父の座をめぐり陰謀渦巻く大奥で、孤独と不安に苛まれていく。妄執にとらわれた父・桂昌院(西田敏行)に従い、“生類憐みの令”を発令するも、国は乱れていくばかり。運命に翻弄され、生きる気力をも失った綱吉に手を差し伸べたのは、人知れず綱吉を見守り続けていた右衛門佐だった。ついに心を通わせたふたりが、最後に辿り着くのは……。

映画『大奥 ~永遠~ [右衛門佐・綱吉篇] 』
出演: 堺 雅人、菅野美穂、尾野真千子、柄本 佑、田中 聖、要 潤、宮藤官九郎、西田敏行
監督: 金子文紀
発売:アスミック・エース、TBS 販売:松竹

 

6月8日(土)『大奥 ~永遠~ [右衛門佐・綱吉篇]』
DVD&Blu-ray発売!

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ドラマ『大奥 ~誕生[有功(ありこと)・家光(いえみつ)篇]』

発売/TBS 販売/アスミック・エース 販売協力/松竹 DVD-BOX 1万9950円、Blu-rayBOX 2万5200円

映画で描かれる[綱吉]の父、三代将軍・徳川家光の時代。男子のみがかかる疫病により男子の数が激減。いかにして徳川家を存続させるのか? [男女逆転大奥]が誕生する背景が描かれている。壮大なスケールで描かれる[大奥]の原点ともいうべき作品だ。是非、映画とあわせて鑑賞することをお勧めしたい。

©2012男女逆転『大奥~永遠~[右衛門佐・綱吉篇]』製作委員会