辛口メッタ斬りコンビが大絶賛! No.1新人の傑作小説とは

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/23

鋭い舌鋒で新人賞受賞小説を斬る「メッタ斬り」シリーズで人気の書評家・大森望&豊崎由美。先ごろ、電子書籍で発売された爆笑必至の『村上春樹「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」メッタ斬り!』も好評だ。そんな二人が『ダ・ヴィンチ』7月号にて、上半期新人賞受賞作をメッタ斬り! 二人をして「豊作だ」といわしめた2013年上半期、エンタメ・純文学の垣根を越えてもっとも面白かった真の1位とは……?

【大森】 小山田浩子『工場』は、2010年の新潮新人賞受賞作。3年遅れで刊行されました。

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【豊﨑】 わたしは断然、これですね。大森さんが挙げた作品ですが、上半期新人賞はダントツで『工場』。

【大森】 もう結果が出ましたか(笑)。舞台は工場というより広大な企業城下町。敷地内に社員食堂だけで100近く。釣り堀まである。

【豊﨑】 美術館もあります。工場の職員や芸術家の作品を展示してる。いりませんっ!(笑)。登場人物らは働けば働くほど、読者も読めば読むほど、一体何を作ってる工場なのかわからなくなる。

【大森】 その工場で新たに働き始めた3人の登場人物が軸になり、摩訶不思議な日常が描かれます。

【豊﨑】 3人とも、ほぼ同時期に勤めて同じ時間を過ごしているのかと思いきや、単純な時制では語っていない。無理矢理工場に就職させられた元コケの研究者・古笛の仕掛けが見事ですね。

【大森】 工場の屋上緑化要員として引っ張られ、敷地内に家も研究室も全部用意されて「明日からここで暮らしてください」と引っ越しまでさせられる。「でも、コケを生やすのは専門じゃないし、すごく時間かかりますよ」って言うと、「どうぞ好きなように、何年かかってもいいですから!」。初仕事はコケの観察会の引率。そこに参加した小学生が書いた、工場敷地内の生物の研究レポートが、作中作みたいに入ってくる。

【豊﨑】 <灰色ヌートリア>と<洗濯機トカゲ>と<工場ウ>の3章構成。そのレポートがなぜか資料課の校閲室にあり、そこで働くもう一人の登場人物が読み始める。

【大森】 そんなふうに3人の人物の話が微妙につながったり、時間が行ったり来たり自由自在にコントロールされて、工場の不思議な実態が明らかになってきます。

【豊﨑】 実は古笛さんの時間だけが15年経っていることも。

【大森】 素晴らしい。マジックリアリズムっぽく描いた会社員小説でもあり。実際、何万人も働く大手重工業やメーカーや自動車メーカーの敷地はこれくらい広かったりするから、まったくウソでもない。リアルと、突拍子もない奇想との間を行ったり来たりする感じがすごく面白い。

【豊﨑】 構成が章立てではなく、1行空きでブロックになってる。一切改行がないのに、その中でも時制が変わる。最初はわかりにくいけど、コツがわかってくるとたまらなく面白い。興奮した! 国民全員が読むといい。わたしは1億3000万点を差し上げたい。

【大森】 いつのまに点数制が(笑)。僕も、一番は『工場』ですね。

同誌では二人が推薦した残り5作品についても熱い対話をかわしている。

●大森 望エントリー作品
第42回新潮新人賞 『工場』 小山田浩子 新潮社
第11回R-18文学賞 『ハンサラン 愛する人びと』 深沢 潮 新潮社
第19回日本ホラー小説大賞 『先導者』 小杉英了 角川書店

●豊﨑由美エントリー作品
第44回新潮新人賞 『肉骨茶』 高尾長良 新潮社
第49回文藝賞 『おしかくさま』 谷川直子 河出書房新社
第36回すばる文学賞 『狭小邸宅』 新庄 耕 集英社

構成・文=アライユキコ