「イチロー262のメッセージ」シリーズ3作目も飽きないのはナゼ?

スポーツ

2013/6/11

 今年10月には、ついに40歳の大台となるにもかかわらず、今なおメジャーの第一線で活躍するイチロー選手。その存在感は言わずもがなだが、自らが発するコメントについても、TVのスポーツニュースやスポーツ紙で話題になることが度々ある。

 『イチロー262のメッセージ』は、そうしたメディアへの発言を単純にそのまま載せたものだ。ページを開くと、1ページにつきひとつのコメントが真ん中にドカン! あとは、下の方に小さい文字でわずかな解説が付いているだけ。いや、中には「2003年のシーズン終了後の言葉です」と書いてあるだけで、もはや解説すらないページもある。

 それが、2004年にシーズン最多安打を記録した時の本数と同じ数字である262個分連なっているだけの本である。考えようによっては、なんと余白の多い本なんだ!? と思うかもしれない。

 それだけの本が、なぜ、飽きられもせず、3作目の刊行に至っているのか? まずひとつには、イチローがメディアに向けて発しているコメントの内容が単純に面白いという事がある。

 イチローは、特にシーズン中の記者会見において、細かな技術論や、試合でのプレーに関する詳細な心理については多くを語らない。その代わり、結果に対する準備や心構え、取り組む姿勢や意識などについて、抽象的ながらもその重要性については数多くコメントしている。それが、世の中のあらゆることに当てはまる「道理」や「教え」になることが極めて多いのだ。だから、誰が読んでも、年代、職業に関係なく、共感や感心を得られやすいというのがある。

 また、イチロー選手は、試合に勝っても負けてもメディアに必ず対応しており、それを通して見ている大勢のファンのためにも、会見がマンネリ化して無為な時間とならぬよう、あえて遠回しな表現をしたり、含みのあるコメントをしている嫌いもある。

「メディアと選手というのは戦っています。おたがいが緊張しなくてはいけないし、おたがいが育てあう関係だと思います。ですから妥協はしたくないのです。」

 上記は、1冊目の『夢をつかむ イチロー262のメッセージ』の中の210番目に掲載されているコメントだが、記者会見に対してもプロとして接する意識を常に持って接しているということが理解できる。

 また、時には、こんななコメントも。

「悪いことは、作っておかなければ。」

 これは、今回の最新版『自己を変革する イチロー262のメッセージ』の75番目の言葉だが、正直なところ、このひとことだけ聞いていたら、何のことだかサッパリわからない。寸止めで申し訳ないが、その真意については本書を読んでいただくとして、こうした“わかりやすさ”と“わかりにくさ”のさじ加減も、イチロー選手独特のバランスと言えるだろう。野球関係者で、ほかに同じような発言ができるのは、“オレ流”こと落合博満氏(元中日監督)ぐらいであろうか。

 世の中には、他にもイチロー選手の言動を解説している「イチロー本」が多々刊行されているが、この本はある意味イチロー選手のすべてを、もっともレア(生)の状態で提供している本である。その一方で、考えようによっては最高ながらも素材だけをボンッと出されただけという言い方もできる。「(やれるもんなら)料理は自分でしてネ」という意味では、もっとも不親切な本としてもいいだろう。

 実際問題、このシリーズを読むことで、彼の奥底に眠る本心まで到達できるかどうかはわからない。むしろ、その可能性は極めて低い。だが、ナマの発言集であることが、かえってファンの「それでも、なんとか読み取りたい!」という好奇心をくすぐるのである。

 ましてや、続刊が出るにしたがい、イチロー選手の人間としての年輪は一層増しており、コメントの内容もさらに奥深いものになっている。だからこそ、何度出しても読者の興味が絶えないのだろう。

 もし、一部分であっても、この本から彼の考えてる真理に実践レベルで到達できた人ならば、どのような分野であっても、きっと成功するに違いない!?

文=キビタキビオ