「卵子が老化」の衝撃! 産みたいのに産めないのはなぜか?

出産・子育て

更新日:2013/6/14

 昨年2月14日、バレンタインに放送されたNHKドキュメンタリー『産みたいのに産めない~卵子老化の衝撃~』。インターネットの検索サイトでは、「卵子」「チョコ」「老化」の順になるほど、多くの反響があったという。

 話題になった原因には、「卵子の老化」という言葉のインパクトはもちろん、日本が不妊に関する議論を怠り、自然とタブー化していたことも考えられるのではないだろうか。

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 同番組の取材班が番組では伝えきれなかった現状を加筆したのが『産みたいのに産めない 卵子老化の衝撃』(NHK取材班/文藝春秋)。ここでは、不妊をめぐる情報の少なさが、実際に不妊治療を行っている人へ重大な悪影響を与えている現状が痛いほど伝わってくる。

 多くの人が「卵子の老化」に驚いたように、「卵子が老化して不妊になる」という事実が周知されてこなかった現実に愕然とする。女性が持つ卵子のもととなる細胞数は、生まれる前に母体にいるころが最も多く約700万個、生まれたときには約200万個で、35歳までには数万個に減る。「数万個もあるなら」と安心してしまいそうだが、毎月の排卵のたびに千個近くが減っていくという。

 さらに問題なのは、卵子の「質」の低下。本来なら透明で丸いはずの卵子が、個人差にもよるが35歳を過ぎたころから、赤茶色になり、変形してつぶれてしまうなど、目に見えた変化が出てくる。こういった卵子は受精できないケースや、分裂せずに受精卵として育たないケースが多い。

「不妊治療は、受精卵が成長するための“環境”を整備する、という手助けを行うことができるが、分裂に関しては、受精卵が持つ力に頼るしかない。だからこそ、どんなに高い技術を持った医師でも、卵子の老化に太刀打ちすることができずに、頭を抱えているのが現状なのだ」

 このことを、どれほどの人が知っているだろうか。

 同様にほとんど知られていないのが、「男性不妊」を取り巻く現状だ。世界保健機関によると、男性側に不妊の原因がある場合は48%にのぼる。しかし、恥ずかしさや男のプライドという見えない壁のせいか、検査に行く男性は少ない。実際に本書で取材に応じた夫婦も、妻の年齢を考えて最後のチャンスとばかりに検査を受け、夫側に問題が発覚。夫の治療が終わっても、すでに妻の卵子が老化していて不妊に陥るというパターンだ。

 実際に治療を受けた男性患者が「見栄、仕事の都合により男性が率先して治療することが少ない」と話すように、女性の不妊治療への理解すら得られていないのに、男性の不妊治療への周囲の理解はほぼ皆無といってもいいかもしれない。それに加えて、男性不妊の専門医が圧倒的に不足しているという事実も、男性を病院に遠ざけている要因なのかもしれない。

 そして一番の問題は、不妊治療を行っている人が経済的・身体的な負担以外の悩みに苦しんでいるということ。「子どもがいないのが異常でおかしい、親にならなければ一人前ではない、家庭として認められない、遊んでばかりいる、仕事ばかりしている、夫婦として欠陥品……など、これは実際に言われた言葉です」と女性患者が語るように、世間からの偏見や無理解により精神的な負担を強いられている。

 経済負担を軽くする助成金の制度改革や、仕事と不妊治療を両立しやすくする社会改革など「環境」の整備が急務だが、何より改善しなくてはいけないのがすべての人の「意識」。不妊をタブー視することによって当事者のみにしか情報が行き渡らない現状が偏見を生み、次世代の不妊者を増やす。この悪循環を打破するためには、正しい情報にリーチし、不妊をタブー視しないこと。本書がその一端となってくれるはずだ。