三浦しをんもファン! BL出身の漫画家が描く、昭和の濃密な「落語」の世界

BL

公開日:2013/6/15

 2012年の「このマンガがすごい!」オンナ編で第2位となった、BL出身の漫画家・雲田はるこが描く『昭和元禄落語心中』(講談社)の第4巻がいよいよ発売となった。この雲田、昨年の本屋大賞受賞作『舟を編む』(三浦しをん/光文社)が雑誌『CLASSY.』(光文社)に連載された際、挿絵を担当していたのをご存知だろうか?(単行本の帯や装画、またカバーを外すと挿絵も見られる) これはBL漫画好きで知られる三浦しをんが雲田のファンで、たっての希望で依頼したものだという。『舟を編む』が単行本となった際、三浦は「連載当初は知る人ぞ知る漫画家さんだったんですけど、今や注目の人!」とインタビューで語っているが、その「注目の人」となった作品が、落語家が主人公の『昭和元禄落語心中』なのだ。

 主人公は元チンピラでムショ帰りの若者、与太郎。刑務所の慰問に来た八代目有楽亭八雲の落語に一目惚れした与太郎は、出所したその足で八雲に弟子入りを直訴する。これまで一切弟子を取らないので有名だった八雲だったが、なぜか弟子入りを認め、与太郎は八雲の家に住み込み、落語家修行を始めることとなる。しかし面白くないのは同じ屋根の下に住む小夏だ。小夏の父は稀代の天才噺家といわれた有楽亭助六、母は八雲とも関係のあった元芸者のみよ吉で、2人は事故で若くしてこの世を去っている。その後、小夏は八雲に引き取られて育てられたが、自分の両親を死に追いやったのは八雲だと信じ、激しく憎んでいる。

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 ドタバタしながらもなんとか修行していた与太郎だが、大事な八雲の独演会で前座の落語を大失敗、その上居眠りまでして会をぶち壊して破門されてしまう。しかし行くあてのない与太郎は、なんとか許してもらおうと直談判。八雲はそこで3つの約束を守ることを厳命し、さらに与太郎と小夏に、兄弟弟子であった助六との過去を話し始める。話は先代の七代目有楽亭八雲へ2人が弟子入りした戦前から始まり、修行と戦争をくぐり抜け、やがて真打となった助六と菊比古(八代目八雲になる前の名前)の活躍へと続くが、第3巻の終わりで助六が破門されてしまう。真意は第4巻で明らかにされるが、そこには七代目八雲の苦く辛い過去の因縁があったのだった……。

 第4巻には子どもの頃の小夏も登場し、助六と菊比古、そしてみよ吉との浅からぬ関係が描かれている。こうした登場人物の過去を描くことが多いという雲田は、インタビューで「過程を描くのが好き」と答えていて、「ひ弱なもやしッ子が、どうして今のドSな師匠にならないとならなかったのか?」とも話している。八代目八雲の人生の「過程」を描き、弟子を一切取らない「ドS」となった訳、なぜ与太郎を受け入れたのかの理由も次第に明らかになっていくことだろう。また第1巻で出て来た、八雲のファンである演芸評論家アマケンの子ども時代(実は世襲だった!?)が出て来たりなど、ファンなら思わずニヤリとするような細かい部分まで丁寧に描かれている。そして物語のキーパーソンであり、第4巻の表紙となったみよ吉が助六と菊比古の運命を握っていると思わせる強烈な引っ張りのある続き方が、やがて起こる「事故」の悲劇性を暗示している。

 また第4巻は雲田直筆の「有楽亭八雲」名入りオリジナル手ぬぐい付きの特装版も同時発売(数量限定)されるなど、ますます人気を集める『昭和元禄落語心中』。寄席に通い詰める通や、落語関係の本の編集者をも唸らせる本書で「昭和の落語の世界」を楽しみ、本物の落語を聞きにちょいと寄席に出かけてみようか、なんて粋な大人が増えるといいのだが。

文=成田全(ナリタタモツ)