ブラッド・ピットもゾンビに!? 今、ゾンビが世界的なブーム

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更新日:2014/1/29

 今夏には、ブラッド・ピット主演のゾンビ映画『ワールド・ウォーZ』が公開されるなど、世界的なゾンビ・ブームが到来している。一頃のSF映画は終末ブームだったが、現在のゾンビ・ブームは終末の“その後”をサバイブする「ポスト・アポカリプス」といった世界観。絶望からはい上がろうとする人々の姿が、勇気と感動を与えてくれる。ゾンビを「怖い」「気持ちわるい」と敬遠するのはもったいない! 『ダ・ヴィンチ』7月号では、この現象を、アメリカの大人気ドラマ『ウォーキング・デッド』を入り口に分析しつつ、拡大中のゾンビ・コミックを特集している。

――このドラマ(『ウォーキング・デッド』)の原作となったのがロバート・カークマンの同名コミック。まえがきで作者は「ゾンビ映画とは思考を刺激する人間ドラマ」と記している。彼が描き出したかったのは極限状況における人間の変化。主人公のリックは元警官としてリーダーシップを発揮するが、愛する家族を護るためなら仲間以外の人間を抹殺するダークな一面も見せはじめる。誰もが生き残るために手段を選ばない世界で、いつしか物語は対ゾンビではなく、人間こそが真の脅威だということが浮き彫りになる。

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 多くのゾンビファンは、単に怖いから(それも重要な要素としてありつつ)面白がっているだけでなく、危機を背にした人間ドラマに惹かれている。ジョージ・A・ロメロが『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』を監督した際、「世界を一変させる大災害と、それを体験した人々が従来のやり方を押し通そうとしてあがく姿」を映しだそうとしたという。『ウォーキング・デッド』は、このテーマを長大な年代記として描く正統なゾンビ・ストーリーなのだ。

 ゾンビのパンデミックから壊滅的状況となった世界の“その後”を描こうとする、これら一連の流れは「ポスト・アポカリプス(黙示録)」と呼ばれている。

 日本でも花沢健吾の『アイアムアヒーロー』のヒットを皮切りにゾンビ・コミックが増えはじめた。竹書房からはゾンビ・アンソロジー『マンガ・オブ・ザ・デッド』が発売されるなど、ゾンビものが注目されはじめている。むしろ、なぜこれまであまり描かれてこなかったのだろうと不思議に思うくらいだ。考えられるのが、ゾンビがそれほど強力なモンスターでないこと。ゾンビの怖さとは、集団の脅威や感染の恐怖であって、日常を一変させる得体の知れない何かだ。『アイアムアヒーロー』の面白さは、日常の舞台装置のままに非日常に一変する驚き。その世界では誰しもがサバイバル劇の主人公になりえる。マンガ家が銃の免許を持っていたことで生き延びる展開は、意識的に「ポスト・アポカリプス」を描こうとしているだろう。現在、物語はひきこもりの若者がネット上でカリスマ化する「来栖編」に入り、生存者たちの不安定な心象を描きだしている。やはり本作でもパニック後の人間ドラマが中心。根がいい人の英雄は、この残酷な世界で生き残れるだろうか。今後の展開から目が離せない。

<おすすめのゾンビ・コミック> ※同誌紹介を一部抜粋
■『ウォーキング・デッド』(1~3巻) ロバート・カークマン 風間賢二/訳 飛鳥新社 
■『アポカリプスの砦』(1~4巻) イナベカズ/漫画 蔵石ユウ/原作 講談社ライバルKC
■『アイアムアヒーロー』(1~ 11巻) 花沢健吾 小学館ビッグC
■『Z~ゼット~』(1巻)相原コージ 日本文芸社ニチブンC

構成・文=大寺 明