息吹きかけ、スペランカー…ゲーマー共感必至の“ゲームあるある”

暮らし

更新日:2013/6/17

 ゲーム好きから多大な人気を集めている『僕と彼女のゲーム戦争』(師走 トオル/アスキー・メディアワークス)のコミカライズ版が5月に発売された。

 魅力的なキャラクターや、ゲーマーには天国のように映る主人公の環境など、特筆すべき点は多々あるが、この作品の特徴は、そういったところではない。この作品の最大の特徴、それは、実際のゲームが、タイトル名もそのままで登場するということ。キャラクターたちがプレイするゲームは実在するゲームなので、プレイしたことがある人にとっては「あー、それあるある」と思わず共感してしまう要素が盛り込まれているのだ。

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 そこで、今回は、作品に登場する“ゲームあるある”をご紹介しよう。

 まずは序の口、ファミコンでカセットを挿入し、スイッチを入れたら画面がバグってしまったときの対処法。そう、カセットを取り出して端子部分に息を吹きかける技だ。序盤でヒロインの天道しのぶが披露するこの技術、これでなにがどうなるわけでもないだろう。なんだったら任天堂が公式でこの技に「サビによる故障の原因となることが分かっておりますので、端子部に息を吹きかけないようにしてください」と警告アナウンスを出しているほどだ。しかし、多くのファミコンユーザー、いや「カセット」という媒体を使ったゲーム機器のユーザーが、なんかこう端子部分に溜まっているホコリとかその他もろもろを吹き飛ばしたことで、接触を邪魔するものがなくなり、より確実にゲーム機本体と接続され、正常に起動する確率が上がる、と思い込んでいたのだ。しかもそれで不思議と正常に起動したものだから、その「息吹きかけ信仰」ともいうべきものはユーザーの間に強く根付いてしまったのである。また、この他にも、カセットを少し傾けて挿入するといったものや、しっかり接続するのではなく、少し浮かせる感じで接続するなどなど、ソフトを正常に起動させる技は山ほどあるが、ここでは割愛しておこう。

 ソフト面でも、もちろんあるあるネタは存在する。なんと、主人公が最初にプレイするゲームはカルト的な人気を誇るファミコンソフト『スペランカー』。いやらしいタイミングで出現する敵や、非常にシビアな配置の罠などでプレイヤーを極限まで追いつめてくれるゲームだが、『マイティボンジャック』や『魔界村』『カイの冒険』などで見られるように、ファミコンのゲームでは、そんなことは珍しくもない。では、どんなところが特徴的かというと……。主人公が、超がつくほどの虚弱体質なのである。なんせ、わずか数ミリの段差でも落ちれば死ぬし、はじまりのトロッコから少しでも足をすべらせて死ぬ、コウモリにフンをかけられても死んでしまうのだ。そんな彼も今では一部で「スペランカー先生」と親しみをこめて呼ばれるほど人気を集めているのだが、当時は多くのちびっ子たちを絶望のどん底に突き落とし、トラウマを残した張本人。

 もちろん主人公も、当時のちびっ子たちと同じく、プレイした瞬間に「スペランカー先生」を死亡させてしまい、その後のプレイでもことごとく死亡させ「なんてことだ 無事ゴールまでたどり着く気が全然しない 死ぬたびに 精神が すり減るのを感じる」と絶望感にうちひしがられる。もうその姿を見てしまっては、悠長に「あるある」なんて言ってられない。在りし日の自分と重なってしまい、トラウマが呼び起こされ、悶絶してしまうことになるからだ。なんだったら、それに起因して『バンゲリングベイ』のクセのある操作感に打ちのめされた日々や、『キン肉マン マッスルタッグマッチ』でブロッケンは禁止だと言っているにも関わらず使用してくる友人とケンカした日々、『北斗の拳』の「あべし」にパワーアップ効果があると知って驚愕した日々、『ポートピア連続殺人事件』のネタバレをされてマジギレしてしまった日々などが思い起こされ、もうそんな日々は戻ってこないんだと、大人になってしまった今の自分の手をジッと見て、憂鬱な気持ちになってしまうこと必至だ。

 また、ヒロインの天道しのぶが序盤で主人公を勧誘するときに放つワードもネタが満載。「16連射は可能か!?」にはじまり、まくしたてるように「犯人は…ヤ…ヤ…」「かゆ…うま…」「スクリューパイルはできて当然だな?」

「インド人を右に?」「クイックタイムは使わないでいくか!?」「ゆうていみやおうきむこうほりいゆうじとりやまあきらぺぺぺぺぺ……?」などのワードを連発する。「16連射」などの超有名ワードならともかく、「インド人を右に」なんて知っている人のほうが少ないだろう。ちなみにこれは、かつて存在したアーケードゲームの専門誌『ゲーメスト』(新声社)での伝説の誤植である。また、「ゆうていみやおうきむこうほりいゆうじとりやまあきらぺぺぺぺぺ」なんて、知らない人が見たら一発で電波系と思われることは確実だ。ついでに解説しておくと、この不可思議なワードはファミコン版『ドラゴンクエスト2』の復活の呪文のひとつで、これを入力するとレベル48でスタートできるという、一種の裏技である。

 とまあこのように、ところどころにゲーマーがニヤッとしてしまうネタが盛り込まれたこの作品。ゲーム好きであればあるほど、楽しめることはまちがいない。読み進めるうちに、思わずゲームがしたくなってしまうので、時間があるときに読むようにしよう。

文=オンダ ヒロ