重武装のシンデレラにリンゴ爆弾の白雪姫!嫉妬に狂ったプリンセスが凶暴すぎる!

マンガ

更新日:2013/6/21

 『シンデレラ』や『白雪姫』といったおとぎ話のヒロインと言えば、継母や姉にいじめられたり、命を狙われてしまう悲劇のヒロインが多いが、彼女たちは素敵な王子様と出会うことによって救われる。しかし、そんなおとぎ話でヒロインたちが王子様を奪われてしまったら、いったいどうなってしまうのだろう?

 6月12日に発売された『乱視の国のアリス』(ししくらあさこ/双葉社)の主人公・美竹ありすは、メガネを外すとおとぎ話の王子様までメロメロにしてしまうような万物を魅了する顔の持ち主。そんな彼女がおとぎ話の絵本を読みながら迂闊に素顔をさらすたび、物語の王子様たちはありすに惹かれていく。それに怒ったヒロインたちは、物語をもとのハッピーエンドに戻すため、本から抜け出してありすの命を狙うのだ。

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 まず最初にやって来たのは、シンデレラ。つぎはぎだらけでボロボロの服を着た彼女は、ライフルやピストル、ナイフなど、およそ似つかわしくない武器を持ってやって来る。しかも、ありすを見つけたら学校内だろうが問答無用でライフルをぶっ放すし、近づいてきた彼女に向かってナイフ片手にとびかかる。そんなふうに命を狙われているのに、ありすは怖がって逃げるどころか大道芸人を目指している少女だと勘違いし、「ありがとう今日もとっても楽しかったわ!」なんてお礼を言うのだ。見た目どころか心まで純粋で美しいありすに、どうやったら勝てるのかと考えたシンデレラは、自分が得意な料理で勝負を挑むのだが、それも完敗。悪いことをしようとしているのはシンデレラなのに、なんだかシンデレラの方がかわいそうになってくる。継母のイジメから解放され、やっと幸せになれると思ったのに、これではあんまりだろう。

 そして、次にやって来た白雪姫は物語の中の優しげな印象とは違い、かなり姑息な手でありすを殺そうと企んでいる。サンプルと称して街頭でヤマイモ成分入りの日焼け止めや納豆の臭いがする香水を配ったり、睡眠薬入りの林檎ジュースで周りの生徒を眠らせ、ありすにはりんご爆弾をプレゼントする彼女。「私の様に生き返ってしまっては困りますもの殺るなら毒殺よりももっと確実な方法が良いですわ」と笑う白雪姫は、かなりプライドの高いお嬢様のようだ。自分よりも美しいありすのことが妬ましくて、彼女がいる限り自分はもとの美しいお姫様にはなれないからと絵本の中で自分を殺そうとした継母と同じことをしてしまう。ありすが出てきたせいで継母の気持ちが痛いほどよくわかるようになってしまうなんて、なんだか皮肉な気もする。

 さらに、本当は百年眠らなければならないところをありすのせいで物語を修正するために無理矢理起こされ、ちょっぴり不機嫌な『眠れる森の美女』のオーロラ姫も登場。ずーっと目覚めずにこのまま生きていたかった彼女は、「王子様が来まいがどうでもいい事なのでこっちに来たくはなかった」のだそう。でも、物語を修正するためにありすを殺さなければ帰れないので、とりあえずありすを探す。一見ぽやーっとしていて、ありすを殺す体力も能力もなさそうだが、実はイバラで覆った建物ごと眠りの魔法をかけたり、人の夢や妄想を取り出して見ることができる。おまけに、そのほわほわした頼りない雰囲気とは裏腹に、眠っている人の夢をいじって脳に死んでしまうほどのショックを与えることだってできるのだ。

 おとぎ話のヒロインたちが襲い掛かってくるのはちょっとショックだが、彼女たちもドロドロした感情や人間臭い一面を持っていたと思うとなんだかより一層魅力的に見えてくるから不思議だ。だからと言ってありすを殺していいことにはならないが、もしもこんな状況になって自分のハッピーエンドな未来をぶち壊されたら、誰だって同じようなことをしてしまうかも。この本を読めば、また違った角度からおとぎ話のヒロインたちを見ることができるので、彼女たちのことをもっと好きになること間違いなし!

文=小里樹