今年こそ山登りしたい! レベル別に読む登山文庫ガイド

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更新日:2013/6/24

 梅雨が明ければ、アウトドアの季節が到来! とくに梅雨明け直後は「梅雨明け十日」といわれ、山の天候が最も安定する絶好の登山日和がやってくる。『ダ・ヴィンチ』7月号では、ベストシーズンに備えて、山を知り、山を楽しむための文庫を紹介している。

――まず中級レベルでご紹介するのは、『日本百名山』(深田久弥)。初版は1964年だが、現在も多くの登山好きが完登数を競うなど、長年にわたる<山登りのバイブル>的存在だ。名山の選定基準は、「山の品格」「山の歴史」「個性」。日本中の山から、実際に著者が登頂し厳選した。北海道の利尻岳から屋久島の宮ノ浦岳まで、山々への愛情がひしひしと伝わってくる。

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 『新田次郎 山の歳時記』は、『八甲田山死の彷徨』、『孤高の人』、『劒岳<点の記>』など、山岳小説の名作を数多く生み出した直木賞作家による、山にまつわる随筆と紀行の集大成。富士山頂観測所での勤務体験や山に対する想いをリアルに描く。著者自身が「小説よりも随筆のほうが現実感がある」というように、新田文学の原点と<素の顔>の両面が垣間見られて興味深い。

 上級レベルで紹介する小説は、北杜夫『白きたおやかな峰』。精神科医にして小説家の柴崎は、山の素人だてらに、カラコルム遠征隊にドクターとして参加する。目指すは、標高7273メートルの未踏峰ディラン。隊の男たちはそれぞれの夢と事情を抱えながら、病人の続出やアタック隊との交信途絶などを乗り越え、幻覚のように妖艶な処女峰の頂に向かう。美しく猛々しい山々の描写が秀逸な、山岳小説の傑作。

 ノンフィクションからは『マッターホルンの空中トイレ』(今井通子)。女性として世界で初めてヨーロッパアルプスの三大北壁を登頂した泌尿器科医が、まじめに、キレイに明るく楽しくトイレについて語る。本書のタイトルにもなった標高4000メートルの空中トイレや、スイス・アイガーの天然水洗トイレなど、山や旅先で出合った世界のトイレを紹介。さらに、自然のなかで用を足すときのコツなども伝授。

 そして極限レベル。生命を危険にさらしてまでも、なぜひとは山に登るのか――。山岳文学の極北をたどる1冊は沢木耕太郎『凍(とう)』。ヒマラヤの高峰ギャチュンカンに挑み、奇跡的に生還した山野井泰史と妙子。沢木ノンフィクションの白眉ともいえる本書は、世界的クライマーである夫妻が「どうしてその山を目指し、どのように遭難し、なぜ生きて帰られたのか」に迫る。壮絶な死線を彷徨った後日、山中に残してきたゴミを回収しに現地を再訪した二人。その、山への姿勢に感服。

 笹本稜平『還るべき場所』は、ひとが生きる目的を問う感動長編。4年前、世界2位の高峰K2の東壁で、矢代翔平は最愛のパートナー・聖美を喪った。雪崩で宙吊りになった聖美は、自分の生命と引き換えに彼を救ったのだ。以来、生きる意志も失った翔平は、山友の亮太に「K2へ行かないか」と誘われる。因縁の東壁を目指す翔平。聖美との再会という<奇跡>は起こるのか――。(本誌より一部抜粋)

 同誌では、山のスペシャリストにブームを分析してもらいつつ、全12冊のフィクション・ノンフィクションをレベル別に紹介。登るのが先か、読むのが先か? まずは自分にぴったりのレベルから始めてほしい。

構成・文=あつしな・るせ