『進撃の巨人』だけじゃない! アニメ現場の過酷な舞台裏

業界・企業

更新日:2013/6/26

 アニメの作画崩壊や放送が始まってからのアニメーター募集、特典DVDつきで発売される予定だった11巻がDVDの制作遅れによって発売中止になるなど、何かと話題になっている『進撃の巨人』。しかし、作画崩壊が話題になったり、アニメの制作が遅れているのはなにも『進撃の巨人』だけじゃない。放送20周年記念として制作されていた『美少女戦士セーラームーン』の新作アニメをはじめ、『翠星のガルガンティア』や『ガールズ&パンツァー』もOVAの制作が遅れているようだ。こういった事態の背景には、アニメ制作の過酷な現状が関係しているのだろう。そこで、『アニメビジネスがわかる』(増田弘道/NTT出版)や『アニメーター労働白書2009』といったものからアニメ制作現場の実態を見てみよう。

 アニメ業界の過酷さと聞いてまず最初に挙げられるのは、制作費や給料といった金銭的な問題。『オタク学入門』(岡田斗司夫/新潮社)にマンガ評論誌だった『コミックボックス』で手塚治虫の追悼特集をやったときのことが書かれているのだが、その追悼記事で宮崎駿は「昭和38年に彼は、1本50万円という安価で日本初のテレビアニメ『鉄腕アトム』をはじめました。その前例のおかげで、以後アニメの制作費が常に安いという弊害が生まれました」と語っている。『アニメビジネスがわかる』でも、「放送局から支払われる金額のほとんどが製(制)作費に満たない、あるいは全く出ないケースがあるにもかかわらず、放送局が著作権や二次利用から生じた収入の分配を要求する」と書かれており、かなり厳しい状況でやりくりしていることがわかる。その結果、当然スタッフに支払われる給料も安くなる。『アニメーター労働白書2009』で紹介されていたアニメ業界全体の2007年度の平均年収は255.2万円。比較として出されていた民間企業の平均である437.2万円という数字を見ると、その差がはっきりとわかるだろう。

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 また、深刻な人手不足に陥っていることも大きな問題。もちろん、制作費が少ないのでスタッフを雇えないということもある。その結果、ひとりあたりの労働時間が増え、その生活に耐えられなくなってギブアップしていくものもいるだろう。実際、『アニメーター労働白書2009』によると、アニメ業界の人の1日の平均労働時間は10時間半。おまけに、月の平均休日数はおよそ4日。こんな状態では、よっぽど好きじゃなければ続けられない。でも、ただ人手が増えればいいというわけでもないのがアニメ業界の難しいところ。やはりそれなりに描ける人でなければならないし、動画マンからシナリオや演出、監督といった次のステップに進むためにはただ描けるだけじゃダメなのだ。それに『アニメビジネスがわかる』によると、現場のスタッフだけじゃなく優秀なプロデューサーや面白い作品を生み出すマンガ家、原作者も減ってきているよう。もはや、これはアニメ業界だけの問題ではないようだ。

 さらに、どんどん日本のアニメ作品のクオリティが上がり、視聴者の目が肥えてしまったことも大きな要因と言える。面白い原作が減ってきたので、それを補うために動きの滑らかさや派手さ、映像のインパクトに力を入れざるを得ないのかもしれない。なんにせよ、視聴者はより高いクオリティを求めているし、日本のアニメーターには職人気質なところがあるので、彼らがより高いクオリティで作品を発表しようとするのは当然。しかし、時間や金銭的な問題で妥協せざるを得ない部分も出てくる。その結果、作画崩壊やOVAの制作が延期になるといった事態が発生しているのだ。そもそも、『進撃の巨人』もその高いクオリティが評価されて人気を集めている部分もあった。だからこそ、時折みられる動きやデッサンの違和感に対して「作画崩壊だ!」という声があがるのだろう。本来のクオリティが高くなければ、手抜きやレベルが落ちたなどと言われることはない。

 どんなに作画が荒れたり制作が延期になっても、アニメを求める人々やそれに応えようとするアニメーターは消えないし、日本のアニメにはそれだけの需要があるということ。過酷な現状が今すぐ解消されることはないかもしれないが、アニメーターのみなさんにはこれからも頑張っていただきたいし、少しでもこの現状が改善されることを願うばかりだ。

文=小里樹