江夏を、大谷を、どう口説く? プロ野球スカウトに学ぶ人材の選び方、獲り方

スポーツ

更新日:2014/2/1

 野球関連の書籍で、2000年代以降、もはや一ジャンルを築いてしまったといっても過言ではないのが「スカウトもの」。いわゆるプロ野球のスカウトたちの活躍、知られざる好選手発掘の方法、逸材か否かの基準、獲得をめぐる交渉などを描いた作品だ。たとえば『スカウト』(後藤正治/講談社)、『スカウト物語―神宮の空にはいつも僕の夢があった』(片岡宏雄/健康ジャーナル社)、『スカウト』(安倍昌彦/日刊スポーツ出版社)。マンガでも、あの三田紀房による『スカウト誠四郎』(講談社)や『隠し球ガンさん』(木村公一:著、やまだ浩一:イラスト/文藝春秋)などが野球ファンを楽しませてくれた。

 これは、インターネットが普及し始めた1990年代後半からの、アマチュア野球、ドラフト会議に対する野球ファンの潜在的だった興味の顕在化が招いた事態のひとつといえるだろう。こうしたスカウト本を読んでいると、気づくことがある。スカウトたちは「人材採用のプロ」であり、人を見る目や採用の判断基準、交渉術は、野球に止まらず、一般社会にも通ずるということだ。そんな切り口で描かれた「スカウトもの」が『人を見抜く、人を口説く、人を活かす プロ野球スカウトの着眼点』(澤宮優/角川書店)。著者はかつて『ひとを見抜く 伝説のスカウト河西俊雄の生涯』(河出書房新社)を描いたノンフィクション作家。その河西をはじめ、多くのプロ野球界のスカウトたちの取材から得た、プロ野球界の人材発掘、獲得、活用にまつわるスポーツノンフィクションだが、前書きでも著者が述べているように、ビジネス書としても役立つよう意識してまとめられている。

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 たとえば選手やその家族に信頼を得る、さまざまな「誠意」の示し方、あるいは当初、大学進学希望でプロには見向きしなかった江夏豊。阪神の担当スカウトだった佐川直行は江夏のプライドが高い性格を見抜き、彼に「戦力にならん」と伝え、プライドをくすぐり「ならやってやろうじゃないか」と本人の心を動かして獲得に道筋をつけた例。最近でもメジャー挑戦を表明した大谷翔平(日本ハム)に、ドラフト指名をした日本ハムが具体的な育成計画を示して入団を了解してもらったことにも触れている。スカウトたちの視点や手法は「人材論」として、新旧関係なく参考になる。スポーツはよく人生にたとえられるが、そう考えれば、スカウトたちのノウハウが一般社会でも通じるにも当然なのかもしれない。

文=長谷川一秀(ユーフォリアファクトリー)