アニメ化で話題の『ニセコイ』 打ち切られた前作も実は隠れた名作だった!

マンガ・アニメ

2013/7/4

 『週刊少年ジャンプ』(集英社)のラブコメ三国志の覇者として君臨した『ニセコイ』(古味直志/集英社)のアニメ化がこのたび決定した。ファンの大きなお友達から大歓声が聞こえてきそうなビッグニュースである。しかし、その陰で、だれよりも歓喜し、うれし涙を流す勢いの人々がいる。そう、彼らは作者・古味直志の前作の熱烈なファン、『ダブルアーツ』(集英社)ファンなのだ。

 『ダブルアーツ』と聞いて、その名前の聞き覚えのなさに首をかしげる方も多いと思う。それもそのはず、この作品、じつは全23話、コミックの巻数にして3巻までしか出ていない、『週刊少年ジャンプ』伝統の、いわゆる「打ち切り」作品なのである。「なんだ、そうなのか」と思うのはまだ早い。この『ダブルアーツ』は、とても打ち切り作品とは思えないほどの人気を誇り、読む人を惹きつけるおもしろ作品なのである。

 では、そのおもしろさとはなんなのか、ご説明しよう。まずは、その世界観。とある世界のお話なのだが、その世界では「トロイ」という奇病が蔓延し、多くの人を死に追いやっていた。この、まさに奇病としかいえない「トロイ」。どういう病かというと、正式には「透化病」というらしく、感染者に接触する(皮膚や髪の毛でも)ことで伝染し、発症すれば発作を起こしながら徐々に体が透け、1分程度で感染者は消滅してしまうといった、おっそろしい病気なのだ。『ダブルアーツ』の世界では、明確な治療法がないまま、すでに10億人以上が「トロイ」の犠牲になっている。そんななかで、唯一、一時的な治療ができる存在がヒロイン、エルレイン・フィガレットの所属する団体の女性たち、通称「シスター」。しかし、治療とはいっても、「トロイ」への耐性が強いシスターが、患者の毒を自身の体に移すといったもので、やり続けるうちに、吸い取った毒が耐性を凌駕し、発作を起こしてしまうのである。まさに死と隣り合わせなシスターたち。しかも「トロイ」に感染しているということで、ときには一般人から無下な扱いを受けることも多いという不遇っぷり。また、そのうえ、シスターを狩る組織「ガゼル」の暗殺者に、常に狙われてもいるのだ。そのナチュラルな追いつめられっぷりは、不幸メーターがあるなら限界突破して天を突こうかというほど。奇病が猛威をふるい、それをなんとか止めようとする女性たちは、常に命の危機にさらされている。もうメロメロである。

 主人公たちの設定もまた興味をひきつけるもので、なんと主人公のキリ・ルチルは、「トロイ」に感染しないどころか、感染者に触れると、その発作を止めることができるという、奇跡のような体質の持ち主。その手で、エルレインの発作を止めるのだが、触れ続けないと発作がはじまってしまうので、ふたりは常に、どこか肌を触れ合わさないといけなくなってしまう。そのため、作中では、常時手を繋ぎ続けることに。普段の生活はもちろん、トイレもお風呂も寝るときも手を繋いどかなければいけないのだ。男からすれば夢のような話だが、なんせ「ガゼル」の暗殺者から逃げるときも、戦うときも手は繋いだまま。これはもう、どえらいハンデとしかいいようがないだろう。ふたりはいったいどうなってしまうのか、これは子どもでなくともワクワクしてしまう。そんな心配もどこ吹く風。ふたりは、常に前向きだ。なんなら、実力のある武術家として知られるファラン・デンゼルから手を繋いだまま戦う方法を指導してもらい、その闘法に「双戦舞(ダブルアーツ)」なんて名前ももらってしまう。ハンデを武器に変えてしまう、その姿。しかも、編み出した闘法に、作品のタイトルをつけるという粋な演出。もうメロメロである。

 後に『ニセコイ』でも存分に発揮されることになるのだが、このころから、作者の描く女性キャラは魅力的だ。ヒロインのエルレインは、辛い過去をもちながらも、健気に「トロイ」感染者を救おうとする、ツッコミキャラの正統派。とはいうものの、弱さも隠し持ち、シスターという職業柄、死への覚悟はもっているものの、実際に発作が起きると「やりたいこともいっぱいあった やらなきゃならないこともたくさん…」と涙を流す。また、一般人から無下な扱いを受けた過去があるためか、彼女を受け入れようとするキリの両親を「私の体は!! 凶器と同じです!!」と突き放そうとしてしまうのだ。寝相もものすごく悪く、朝には頭が寝癖だらけで、どれだけ直しても、髪の一部が不自然に立ってしまうといった欠点も抱えている。欠点とはいうものの、萌えである。たまらなく萌えである。

 準ヒロインのような存在のスイもまたたまらない。くるぶしまで届くような長い黒髪が特徴的な彼女は、「武の民」という勇猛で、強い肉体をもつ種族の純血種。武芸に秀でており、ケンカ好きなわんぱく者だ。強いやつと戦いたいという、まるで「ストリートファイター」シリーズのリュウのような目的をもっており、そのため「ガゼル」の暗殺者から常に狙われているキリとエルレインに連いて、旅に出る。スレンダーな体に、キレイな黒髪、整った顔立ち、そしてわんぱく属性持ち。しかも負けず嫌いな一面もあり、ファランに瞬殺された後は、大粒の涙を流しながら負け惜しみをいう始末。その姿は、萌えである。たまらなく萌えである。

 とまあ、こんなに魅力的な要素を持ちながらも、あえなく「打ち切り」という憂き目にあってしまった『ダブルアーツ』。『ニセコイ』アニメ化ということで、こちらの作品が日の目を見るのも、そう遠くはないような気がする。しかし、ファンだった無名のバンドが有名になった気分と似て、日の目を見ることになったらなったで、複雑な気分に陥ってしまうのだ。

文=オンダ ヒロ