吾妻ひでお×西原理恵子が語る アルコール依存症という病い

健康

2013/7/13

 いよいよビールが美味しい季節が到来。日頃のストレス発散にお酒は欠かせないという人も多いはず。ただし、昔から「酒は飲んでも飲まれるな」といわれるように、ある一線を越えたあたりから途端に危険なものになるのがお酒の怖さ。一端アルコールに依存すると、やめようと思っても近くのコンビニに100円程度でお酒が売られており、断酒するには強い意志がいる。ある意味、脱法ドラッグよりも危なっかしい政府公認のドラッグがアルコールかもしれない。

 そこで、お酒好きの人がお酒に飲まれないために読んでおきたいのが、『実録! あるこーる白書』(吾妻ひでお・西原理恵子:著、月乃光司:その他/徳間書店)だ。共にマンガ家として活躍する2人だが、創作に頭を悩ませ、時間も不規則なマンガ家は、アルコール依存症に陥りやすいと冒頭で語られる。

 吾妻ひでおはショートギャグと不条理SFで70年代に多くのファンに支持されながら、アルコール依存症となり失踪……。その模様を描いた『失踪日記』(イースト・プレス)が2005年に出版され、手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞するなど高い評価を受けて復活。1999年に断酒してからは一切飲んでいないという。

 かたや西原理恵子は戦場カメラマンの元夫・鴨志田穣のアルコール依存症が理由で2003年に離婚。鴨志田は治療に専念したが、ようやく治ったという矢先に腎臓がんにより他界した。夫との日々の生活と別れを『毎日かあさん』(毎日新聞社)で描き、今では「日本一のアル中家族」を自認している。

 徹底的にお酒に苛まれたこの2人が「アルコール依存症」について語り合うのだから、初対面とは思えないディープさだ。

 世間では、お酒に飲まれた人を「アル中」と呼ぶが、厳密には、大学生が一気飲みをしてぶっ倒れたりするような急性中毒が「アルコール中毒」。そのため本書で用いられるのはあくまで「アルコール依存症」となる。この「依存」という言葉もだらしなくお酒に頼っているようなイメージを持たれがちだが、本書をとおして見えてくるのは、それが本人の意志だけではいかんともし難い、れっきとした“病気”であり、しかるべき専門機関で治療すべきものであることだ。

 お酒が強いと「男らしい」という風潮がある。西原が生まれた高知県では、飲んで泥酔すればするほど人間の株が上がるような気風があった。幼い頃からそうした環境にあったせいもあり、夫の鴨志田が昼から泥酔して寝ていても当初は病気であることに気づかなかったそうだ。

 一方、吾妻の場合は、躁鬱病をまぎらわせるために習慣飲酒となり、酩酊しながら仕事をするように。ついには朝起きてすぐにお酒を飲むという連続飲酒となった。こうした生活を1年も続けたところ幻覚と幻聴がはじまり、妻と息子に抱えられて強制入院。タクシーの中で「俺の酒はどこだ!」と叫んでいたそうだ。断酒に成功した今でこそ笑って話せる話だが、当時の家族は必死の思いだっただろう。

 不謹慎かもしれないが、アルコール依存者たちのはちゃめちゃなエピソードや飲酒への執念は、はたから見ればユーモラス。当の本人も酔っぱらっていてよく覚えていなかったりする。本当に苦しいのはひとつ屋根の下で暮らす家族だ。アルコール依存症が重度になると被害妄想がひどくなり、人格まで変わってしまうという。西原は夫の鴨志田からずっと罵詈雑言を浴びせられ、それがアルコール依存症という病気だと気づくまで苦しみ続けた。西原がこうした座談やマンガで当時のことを赤裸々に語るのも、アルコール依存症が病気であることを多くの人に認識してもらうための啓蒙活動なのだ。

 不安が多いこの時代、お酒をたしなむ人なら誰しもがアルコールに依存しかねない。断酒会やアルコール病棟の内幕など、アルコール依存症を克服しようとする模様が語られる本書を読むと、つくづくお酒もほどほどに……と思えてくる。やっぱりお酒は人に迷惑をかけず、楽しく飲みたいじゃないですか。

文=大寺 明