教えて!大人でも楽しめるキャラクター小説 『狼と香辛料』ほか ―ブンガク!【第8回】―

更新日:2013/8/8

 中高生を中心に大人気の「ライトノベル」(通称ラノベ)。最近ではテレビアニメ化などの影響でファン層も拡大しています。そこで、ラノベって言葉は知ってても読んだことがない、という初心者向けに“超”入門コラムをお届け!代表的な作品の紹介や、楽しみ方について、作家や絵師など関係者への取材も織り交ぜながら、ラノベ風の会話劇でお送りします。毎月第1・3火曜に更新予定!

制作協力:代々木アニメーション学院 / 文=カンダ ユウヤ 絵=ましま


【前回までのおさらい】
○【第1回】ブンガク部が廃部ってどういうこと?
○【第2回】帰国子女でラノベ好きな美少女あらわる!
○【第3回】ブンガク部の救世主?顧問をさがせ
○【第4回】ラノベ好きな先生からの挑戦状
○【第5回】『東京レイヴンズ』作者・あざの耕平さんに聞いてみた
○【第6回】ラノベって女の子でも読めるの?
○【第7回】中二病でトラブルメーカーってなんなの?

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~保健室~

中島優斗(普)
「田中先生、頼まれた本を図書室から借りてきました」

田中先生(普)
「おお、きたね。部活が忙しいのにごめんね、中島君」

中島優斗(笑)
「いえ、別に僕は……で、この本、何に使うんですか?」

田中先生(普)
「ああ、これね。この前の校内ラジオの影響もあってか、先生方から大人でも楽しめるラノベ系の作品はないかなという話をされてね。その参考に使う本だよ」

中島優斗(普)
「へえ、そうなんですか」

田中先生(普)
「まあ、何せ、今月は生徒と教師の読書月間だからね、お勧めの本をよく聞かれるんだよ」

中島優斗(普)
「なんだか、大変ですね」

田中先生(笑)
「まあね、でも誰かに頼られるって悪い気はしないから別にいいんだけどね」

中島優斗(笑)
「意外と世話焼きな性格なんですね、先生」

田中先生(困)
「そうかい? まあ、そうなのかな……あ、そろそろ時間だ」

中島優斗(普)
「時間、先生どこかへ行くんですか?」

田中先生(普)
「どこ行くっていうわけでもないけど、ちょっと用事がね」

中島優斗(普)
「……?」

今川凜子(普)
「失礼します。田中先生はいらっしゃいますか?」

中島優斗(普)
「あれ、今川さん!?」

今川凜子(笑)
「なんだ、中島君もここにいたんだ」

中島優斗(普)
「どうしてここに、どこか怪我でもしたの?」

今川凜子(普)
「ううん、そうじゃなくて、ちょっと先生に用があってね」

田中先生(笑)
「やあ、凜子ちゃん、来たね、待ってたよ」

今川凜子(笑)
「はい、田中先生」

中島優斗(困)
「え、どういうこと?」

田中先生(笑)
「あー、そうだったね、中島君には話していなかったね。今日から新しく我らがブンガク部の仲間になることになった今川凜子ちゃんだ」

今川凜子(笑)
「はい。よろしくね、中島君」

中島優斗(困)
「え、ええっ!」

田中先生(普)
「ではでは、気を取り直して早速、二人にはお仕事をしてもらうよ」

中島優斗(困)
「あ、はい」

今川凜子(普)
「はい」

田中先生(普)
「じゃあさ、まずはこの本を知ってる?」

中島優斗(普)
「ん? これは、薬師寺涼子の怪奇事件簿?」

田中先生(普)
「そう、ドラよけお涼(※1)だよ」

『魔天楼 薬師寺涼子の怪奇事件簿』

※1「ドラよけお涼」
『魔天楼 薬師寺涼子の怪奇事件簿』(田中芳樹/講談社)

東大卒の警視庁キャリア官僚、加えて絶世の美女だが性格は最悪の主人公・薬師寺涼子が、部下を引っ張りまわして怪奇事件を解決していくというストーリー。部下である苦労人の泉田準一郎による一人称視点で語られる。事件には世界各地の神話をモチーフとした化け物やそれを利用する人間がほとんどで、普通の人間が行えない難事件に薬師寺涼子が挑んでいく。2008年7月にアニメ化された。“ドラよけお涼”とは主人公・薬師寺涼子の通り名の略称で、本来は“ドラキュラもよけて通る女、薬師寺涼子”である。

今川凜子(笑)
「あ、私、知っていますよ。ドラキュラもよけて通るという美女が世界各地の神話をモチーフとした怪物やそれを利用する人間の怪奇事件を取り締まるお話ですよね」

中島優斗(困)
「なんだか、すごい内容なんだね。事件簿なのにドラキュラだし……」

田中先生(普)
「いやいや、見てみるとこれが面白いんだよ! 正直、主人公に惚れちゃうよ」

中島優斗(普)
「へえ~」

今川凜子(笑)
「そうですね、女性でも薬師寺涼子みたいな人は憧れますね」

田中先生(笑)
「ああ、そういわれると、これを選んだのは正解だね。さてお次は、これだ!」

中島優斗(普)
「えーと、守り人シリーズ?」

田中先生(笑)
「これは僕のお気に入りで、中でも精霊の守り人(※2)はまさに名作だね!」

『守り人シリーズ』

※2「精霊の守り人」
『守り人シリーズ』(上橋菜穂子/新潮社)

30歳の女用心棒バルサを主人公に、人の世界と精霊の世界を描いたハイファンタジー。100年に一度卵を産む精霊に卵を産みつけられ、“精霊の守り人”としての運命を背負わされた新ヨゴ皇国の第二王子チャグム。母妃からチャグムを託された女用心棒バルサは、チャグムに憑いたモノを疎ましく思う父王と、チャグムの身体の中にある卵を食らおうと狙う幻獣ラルンガ、ふたつの死の手から彼を守って逃げることになるのだが・・・。2007年4月にアニメ化された。“精霊の守り人”とは守り人シリーズ、第一作『精霊の守り人』のこと。

今川凜子(笑)
「人間ドラマというか人間らしさを良い意味で見られるのがこの作品のいいところですよね」

田中先生(普)
「うん。意外と中島君みたいな人には丁度いいんじゃないかな」

中島優斗(笑)
「そうですか、じゃあ、今度、読んでみますね」

今川凜子(普)
「……えーと、次は狼と香辛料ですね」

田中先生(笑)
「来たね、驚きの経済系ファンタジー!」

中島優斗(困)

「経済とファンタジー!? なんともまた、意外なものが混ざりましたね」

田中先生(普)
「そう思うでしょう、だけど内容は面白いよ。宗教的な面もあるけど現在の外交や経済に共通する点や現実味のある処世的なやり取りなど、社会人には通ずる内容がこの作品の見所の一つなんだよ」

中島優斗(笑)
「ふ~ん、そうなのか。経済とファンタジーという組み合わせに少し違和感があったけどそう聞くとなんだか面白そうですね」

田中先生(笑)
「そうなんだよ。あ、それとここだけの話だけど、この本を元にトレードをしたら株で儲かっちゃってさ! これも麦に宿る神様(※3)のおかげだね!」

参考著書『狼と香辛料』著者『支倉 凍砂』(アスキー・メディアワークス)

※3「麦に宿る神様」
『狼と香辛料』(支倉凍砂/アスキー・メディアワークス)

旅の青年行商人クラフト・ロレンスは、商取引のために訪れた村を後にする。その夜、荷馬車の中に眠る一人の少女を見付ける。彼女は自らホロと名乗り、狼の耳と尻尾を持つ少女であった。そしてロレンスは少女が豊作をつかさどる賢狼の化身であることを知り、ロレンスは彼女を旅の道連れとし、二人は様々な騒動に巻き込まれながら、彼はホロの故郷を目指して旅をすることになる。“麦に宿る神様”とは作中のヒロインのホロの別名。

中島優斗(困)
「……え、トレード? 何の話ですか?」

今川凜子(普)
「ああ、中島君はあまり知らなくてもいいことだから」

中島優斗(困)
「……え?」

田中先生(笑)
「ではでは、最後にはこれ! 図書館戦争!!」

今川凜子(笑)
「あ、これは私、知っています」

中島優斗(普)
「うん、僕も知ってる」

田中先生(笑)
「そうでしょう、そうでしょう!」

中島優斗(笑)
「つい最近は映画とかもやっていましたよね」

田中先生(普)
「そうなんだよ、今やいろんなメディアで名が広がっている図書館戦争。僕も読んでみてびっくりさ! 図書館なのにどうして戦争してるの? とか、物語の為にここまで命かけられるの? とか掘り下げるほどに奥が深くなっていく作品だよ」

今川凜子(笑)
「私も読んだことがあるから分かります。社会に反してまで物語を守る、ロマンを感じますよね」

中島優斗(笑)
「僕も読んでて、グッとくるものがあったな。物語が好きな僕から見ても少し憧れる部分もあるよ」

田中先生(笑)
「……君たちがそういってくれるとうれしいよ! そんな君たちがいれば、この世の物語は守られたも同然だね。ありがとう~! 図書隊(※4)に栄光あれ!」

『図書館戦争』

※4「図書隊」
『図書館戦争』(有川浩/角川書店)

2019年。公序良俗を乱す表現を取り締まる『メディア良化法』が成立して30年。高校時代に出会った、図書隊員を名乗る“王子様”の姿を追い求め、行き過ぎた検閲から本を守るための組織・図書隊に入隊した、一人の女の子がいた。名は笠原郁。不器用ながらも、愚直に頑張るその情熱が認められ、エリート部隊・図書特殊部隊に配属されることになったが…。シリーズ累計400万部を突破する有川浩の代表作。2008年7月にアニメ化、2013年4月に実写映画化されている。“図書隊”とは作中の主人公、笠原郁の所属する組織のこと。

中島優斗(笑)
「もう、大げさですよ、先生」

今川凜子(笑)
「うふふ……」

キ~ン♪ コ~ン♪ カ~ン♪ コ~ン♪

田中先生(困)
「あれ、もうこんな時間か?」

中島優斗(普)
「下校時刻になってしまいましたね」

今川凜子(普)
「じゃあ、今日はこのくらいでお開きですね」

田中先生(普)
「そうだね、今日はこの辺にしてこうか」

中島優斗(普)今川凜子(普)
「「はい」」

田中先生(笑)
「それじゃあ、今日は解散! また明日ね、お疲れ様~」

中島優斗(笑)今川凜子(笑)
「お疲れ様です、さようなら」

中島優斗(普)
「ふう、ようやく終わったね」

今川凜子(普)
「そうだね。それじゃあ、私もそろそろ帰ろうかな……」

中島優斗(笑)
「あ、うん。分かった、またね」

今川凜子(普)
「うん……中島君」

中島優斗(普)
「なに?」

今川凜子(普)
「じゃあ、改めて、よろしくね」

中島優斗(笑)
「ああ、こちらこそ」

今川凜子(普)
「じゃあ、またね。バイバイ」

中島優斗(笑)
「うん、またね……さて僕もそろそろ帰ろうかな」

……つづく

次回予告

中島優斗(普)
「こんにちは、中島優斗です」

今川凜子(普)
「こんにちは、今川凜子です」

中島優斗(笑)
「今日はいろいろな作品に触れられたね、今川さん」

今川凜子(笑)
「うん、そうだね。田中先生にはたくさん勉強をさせてもらっちゃったね」

中島優斗(普)
「うん、そうだね。では……」

中島優斗(笑)今川凜子(笑)
「「次回のブンガクをお楽しみ!」」