教えて!大人でも楽しめるキャラクター小説 『狼と香辛料』ほか ―ブンガク!【第8回】―
更新日:2013/8/8
【前回までのおさらい】
○【第1回】ブンガク部が廃部ってどういうこと?
○【第2回】帰国子女でラノベ好きな美少女あらわる!
○【第3回】ブンガク部の救世主?顧問をさがせ
○【第4回】ラノベ好きな先生からの挑戦状
○【第5回】『東京レイヴンズ』作者・あざの耕平さんに聞いてみた
○【第6回】ラノベって女の子でも読めるの?
○【第7回】中二病でトラブルメーカーってなんなの?
~保健室~
「田中先生、頼まれた本を図書室から借りてきました」
「おお、きたね。部活が忙しいのにごめんね、中島君」
「いえ、別に僕は……で、この本、何に使うんですか?」
「ああ、これね。この前の校内ラジオの影響もあってか、先生方から大人でも楽しめるラノベ系の作品はないかなという話をされてね。その参考に使う本だよ」
「へえ、そうなんですか」
「まあ、何せ、今月は生徒と教師の読書月間だからね、お勧めの本をよく聞かれるんだよ」
「なんだか、大変ですね」
「まあね、でも誰かに頼られるって悪い気はしないから別にいいんだけどね」
「意外と世話焼きな性格なんですね、先生」
「そうかい? まあ、そうなのかな……あ、そろそろ時間だ」
「時間、先生どこかへ行くんですか?」
「どこ行くっていうわけでもないけど、ちょっと用事がね」
「……?」
「失礼します。田中先生はいらっしゃいますか?」
「あれ、今川さん!?」
「なんだ、中島君もここにいたんだ」
「どうしてここに、どこか怪我でもしたの?」
「ううん、そうじゃなくて、ちょっと先生に用があってね」
「やあ、凜子ちゃん、来たね、待ってたよ」
「はい、田中先生」
「え、どういうこと?」
「あー、そうだったね、中島君には話していなかったね。今日から新しく我らがブンガク部の仲間になることになった今川凜子ちゃんだ」
「はい。よろしくね、中島君」
「え、ええっ!」
「ではでは、気を取り直して早速、二人にはお仕事をしてもらうよ」
「あ、はい」
「はい」
「じゃあさ、まずはこの本を知ってる?」
「ん? これは、薬師寺涼子の怪奇事件簿?」
「そう、ドラよけお涼(※1)だよ」
※1「ドラよけお涼」
『魔天楼 薬師寺涼子の怪奇事件簿』(田中芳樹/講談社)
東大卒の警視庁キャリア官僚、加えて絶世の美女だが性格は最悪の主人公・薬師寺涼子が、部下を引っ張りまわして怪奇事件を解決していくというストーリー。部下である苦労人の泉田準一郎による一人称視点で語られる。事件には世界各地の神話をモチーフとした化け物やそれを利用する人間がほとんどで、普通の人間が行えない難事件に薬師寺涼子が挑んでいく。2008年7月にアニメ化された。“ドラよけお涼”とは主人公・薬師寺涼子の通り名の略称で、本来は“ドラキュラもよけて通る女、薬師寺涼子”である。
「あ、私、知っていますよ。ドラキュラもよけて通るという美女が世界各地の神話をモチーフとした怪物やそれを利用する人間の怪奇事件を取り締まるお話ですよね」
「なんだか、すごい内容なんだね。事件簿なのにドラキュラだし……」
「いやいや、見てみるとこれが面白いんだよ! 正直、主人公に惚れちゃうよ」
「へえ~」
「そうですね、女性でも薬師寺涼子みたいな人は憧れますね」
「ああ、そういわれると、これを選んだのは正解だね。さてお次は、これだ!」
「えーと、守り人シリーズ?」
「これは僕のお気に入りで、中でも精霊の守り人(※2)はまさに名作だね!」
※2「精霊の守り人」
『守り人シリーズ』(上橋菜穂子/新潮社)
30歳の女用心棒バルサを主人公に、人の世界と精霊の世界を描いたハイファンタジー。100年に一度卵を産む精霊に卵を産みつけられ、“精霊の守り人”としての運命を背負わされた新ヨゴ皇国の第二王子チャグム。母妃からチャグムを託された女用心棒バルサは、チャグムに憑いたモノを疎ましく思う父王と、チャグムの身体の中にある卵を食らおうと狙う幻獣ラルンガ、ふたつの死の手から彼を守って逃げることになるのだが・・・。2007年4月にアニメ化された。“精霊の守り人”とは守り人シリーズ、第一作『精霊の守り人』のこと。
「人間ドラマというか人間らしさを良い意味で見られるのがこの作品のいいところですよね」
「うん。意外と中島君みたいな人には丁度いいんじゃないかな」
「そうですか、じゃあ、今度、読んでみますね」
「……えーと、次は狼と香辛料ですね」
「来たね、驚きの経済系ファンタジー!」
「経済とファンタジー!? なんともまた、意外なものが混ざりましたね」
「そう思うでしょう、だけど内容は面白いよ。宗教的な面もあるけど現在の外交や経済に共通する点や現実味のある処世的なやり取りなど、社会人には通ずる内容がこの作品の見所の一つなんだよ」
「ふ~ん、そうなのか。経済とファンタジーという組み合わせに少し違和感があったけどそう聞くとなんだか面白そうですね」
「そうなんだよ。あ、それとここだけの話だけど、この本を元にトレードをしたら株で儲かっちゃってさ! これも麦に宿る神様(※3)のおかげだね!」
※3「麦に宿る神様」
『狼と香辛料』(支倉凍砂/アスキー・メディアワークス)
旅の青年行商人クラフト・ロレンスは、商取引のために訪れた村を後にする。その夜、荷馬車の中に眠る一人の少女を見付ける。彼女は自らホロと名乗り、狼の耳と尻尾を持つ少女であった。そしてロレンスは少女が豊作をつかさどる賢狼の化身であることを知り、ロレンスは彼女を旅の道連れとし、二人は様々な騒動に巻き込まれながら、彼はホロの故郷を目指して旅をすることになる。“麦に宿る神様”とは作中のヒロインのホロの別名。
「……え、トレード? 何の話ですか?」
「ああ、中島君はあまり知らなくてもいいことだから」
「……え?」
「ではでは、最後にはこれ! 図書館戦争!!」
「あ、これは私、知っています」
「うん、僕も知ってる」
「そうでしょう、そうでしょう!」
「つい最近は映画とかもやっていましたよね」
「そうなんだよ、今やいろんなメディアで名が広がっている図書館戦争。僕も読んでみてびっくりさ! 図書館なのにどうして戦争してるの? とか、物語の為にここまで命かけられるの? とか掘り下げるほどに奥が深くなっていく作品だよ」
「私も読んだことがあるから分かります。社会に反してまで物語を守る、ロマンを感じますよね」
「僕も読んでて、グッとくるものがあったな。物語が好きな僕から見ても少し憧れる部分もあるよ」
「……君たちがそういってくれるとうれしいよ! そんな君たちがいれば、この世の物語は守られたも同然だね。ありがとう~! 図書隊(※4)に栄光あれ!」
※4「図書隊」
『図書館戦争』(有川浩/角川書店)
2019年。公序良俗を乱す表現を取り締まる『メディア良化法』が成立して30年。高校時代に出会った、図書隊員を名乗る“王子様”の姿を追い求め、行き過ぎた検閲から本を守るための組織・図書隊に入隊した、一人の女の子がいた。名は笠原郁。不器用ながらも、愚直に頑張るその情熱が認められ、エリート部隊・図書特殊部隊に配属されることになったが…。シリーズ累計400万部を突破する有川浩の代表作。2008年7月にアニメ化、2013年4月に実写映画化されている。“図書隊”とは作中の主人公、笠原郁の所属する組織のこと。
「もう、大げさですよ、先生」
「うふふ……」
キ~ン♪ コ~ン♪ カ~ン♪ コ~ン♪
「あれ、もうこんな時間か?」
「下校時刻になってしまいましたね」
「じゃあ、今日はこのくらいでお開きですね」
「そうだね、今日はこの辺にしてこうか」
「「はい」」
「それじゃあ、今日は解散! また明日ね、お疲れ様~」
「お疲れ様です、さようなら」
「ふう、ようやく終わったね」
「そうだね。それじゃあ、私もそろそろ帰ろうかな……」
「あ、うん。分かった、またね」
「うん……中島君」
「なに?」
「じゃあ、改めて、よろしくね」
「ああ、こちらこそ」
「じゃあ、またね。バイバイ」
「うん、またね……さて僕もそろそろ帰ろうかな」
……つづく
次回予告
「こんにちは、中島優斗です」
「こんにちは、今川凜子です」
「今日はいろいろな作品に触れられたね、今川さん」
「うん、そうだね。田中先生にはたくさん勉強をさせてもらっちゃったね」
「うん、そうだね。では……」
「「次回のブンガクをお楽しみ!」」