プロ野球ファンの魂の叫びを聞け! 弱小球団を愛するということ

スポーツ

2013/7/22

「こんなに苦しいのなら、悲しいのなら……愛などいらぬ!!」

 漫画『北斗の拳』(武論尊:原作、原哲夫:作画/集英社)のサウザーは、自ら師を手にかけた苦しみの中でこう叫び、愛を捨てた。まあサウザーのように師を手にかけたことがある人はまずいないだろうが、それでも愛することが苦しく、そして悲しいということは、多くの人が知っている。そして、それは愛する対象が、人ではなく、プロ野球のチームであっても同じ、である。『4522敗の記憶 ホエールズ&ベイスターズ涙の球団史』(村瀬秀信/双葉社)は、まさにそんなプロ野球のとある球団を愛し続け、応援し続け、いくら裏切られても見捨てることができなかった男の咆哮とも言うべき1冊だ。

 大洋漁業という親会社のもとで1950年に誕生した、“漁師気質”のプロ野球チーム。1年だけ優勝した年(1960年)はあったもののとにかくひたすら負け続けた。平松・斎藤・田代・遠藤・山下ら、球史に名を残す選手を幾多輩出してきたが、それでも黄金時代が訪れることはなかった。平成に入ると日本プロ野球初の“球団名に親会社の名がないチーム”横浜ベイスターズに生まれ変わる。1998年に、マシンガン打線と絶対的ストッパー大魔神佐々木を擁して38年ぶりの優勝を飾ったが、それも一瞬の輝き。再びチームは最下位めがけてダッチロール。今世紀に入ってからは親会社も2度変わった。横浜からの移転話も持ち上がった。IT企業の雄・DeNAに買収され、中畑清監督のもとでの再生が期待された昨シーズンも、おそらく99%の野球ファンが予想していた通りの最下位。もはや、「ベイスターズ=最弱」は野球ファンならずとも知っている常識になってしまった。

 本書は、そんなベイスターズの苦悩の歴史を40人以上の関係者・OB・現役選手へのインタビューをもとにひもといてゆく。98年の優勝で、黄金期到来すら予感させたチームがなぜすぐに低迷してしまったのか。なぜチームはファンが愛する生え抜き選手たちをあっさりと放出してしまうのか。そして、なぜ、弱いのか。93年の大量解雇事件など、ベイスターズファンの中で負の歴史として記憶に刻まれている出来事の裏側にも、関係者の証言などで鋭く迫る。ベイスターズの真の歴史が語られている“歴史書”としての趣もある。

 だが、やはりこの本を通じて聞こえてくるのは、弱くて、勝てなくて、声をからして応援しても裏切られ続けてきた、何度もファンを辞めようと思った、だけどそれでも辞められない、プロ野球ファンの魂の叫びである。なぜファンになったのか。それは最初の頃こそ重要な“アイデンティティ”かもしれないが、時間とともにどうでもいいものになっていく。ただファンだから、ファンなのだ。愛することに理由はいらない。

 全編を通じて著者が涙ながらに訴えるベイスターズ愛は、決して弱くて愛しいベイスターズのファンだけの話ではない。球界の盟主・巨人ファンだって、最近は他球団ファンからつまはじきにされがちな阪神ファンだって、応援するチームに対する愛は変わらない。一度、何かをきっかけにファンになってしまったら、もうあとは戻ることのできない無限地獄が待っている。何せ、いくら強いチームだって1年で60試合は負ける。そして、その日は眠れぬほど辛い夜を過ごす。低迷してシーズンを終えたオフ、「もうファンなんて辞めてやる」とうそぶいたところで気がつけば毎日愛するチームのニュースばかりをチェックしていたり。それが野球ファンの悲しき人生なのだ。

 この本のテーマはもちろんベイスターズ。しかし、行間から溢れてくるファンであることの悲しみ、苦しみ、そして喜びは、ベイスターズファンだけでなく、野球を愛するものなら誰もが共感できるはずだ。むしろ、毎日毎日野球に夢中になり、ときには仕事も家族も放り出してしまうような彼らのことが理解できないと感じている、非野球ファンにこそ読んでもらいたいと思う。読んだところで理解できないかもしれないが。

文=鼠入昌史(Office Ti+)