悲劇と商業主義が交錯するチェルノブイリは、フクシマの未来なのか?

社会

更新日:2013/7/24

 レベル7の原発事故から27年。チェルノブイリの「現在」を紹介した『チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド』(東浩紀、津田大介ほか)が話題になっている。

 本書は、ゲンロンが刊行する思想地図シリーズ4作目。チェルノブイリの現状から福島の未来を導き出すべく、作家の東浩紀氏、社会学者の開沼博氏、ジャーナリストの津田大介氏らが立入禁止区域内、廃墟と化した周辺自治体、そして原子力発電所内部などを巡る。

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 本書がほかのチェルノブイリ本と大きく異なるのは、“観光”をテーマにしている点。いまだ後遺症に苦しむ人が後を絶たず、廃炉作業も終わっていない悲劇を思えば、観光地のもつ軽薄な響きにギャップを感じる人も多いだろう。しかし、現実にチェルノブイリの原発と周辺地域は、外国人を含めた観光客の受け入れを積極的に行っている。

 そもそも、本書のタイトルにある“ダークツーリズム”とは、近年生まれた新しい旅の概念で、戦争や災害といった人類の負の足跡を辿り、死者を悼み、地域の悲しみを共有するというもの。日本でいえば沖縄や広島への修学旅行、近年の旅先としてはニューヨークのグラウンド・ゼロなどもある。そして、除洗が進んだチェルノブイリも例外ではない。

 本書の前半は、チェルノブイリの立ち入り禁止区域や博物館や記念公園などのスポットをガイド本風に紹介し、後半では当事者であるウクライナ人たちの声や取材ルポを掲載する。なかでも興味深いのが、立ち入り禁止区域庁第一副長官、旅行会社代表など6名のキーパーソンを取材したインタビューだ。

 そのなかで、チェルノブイリの観光プランナーは、観光地化するメリットについて次の3つの要素を挙げる。「観光の実現が事故処理において明確な目標として機能する」「観光ツアーが科学的な知見に基づいてきちんと行われることは、放射能の危険に関する啓蒙手段として有効である」「地域復興のための経済効果」だ。彼は、事故の風化を恐れる他のキーパーソンたち同様、原発事故を題材にしたホラーゲーム『S.T.A.L.K.E.R』さえも、「ゲームのおかげで、チェルノブイリは若者にとって“楽しいもの”になった」と歓迎する姿勢を見せている。

 原発事故を報じる言葉が徐々に定型化し、人々にとって“退屈”になってしまったとき、少しでも“楽しめる”内容を世に送りだすことは、風化を防ぐひとつの手段になりえるのかもしれない。「悲劇の記憶は商業主義との接続なしには継承されない」という思想をさまざまな角度から検証する本書は、今後の福島を考える上で欠かせない1冊になるだろう。

文=矢口あやは