博学の荒俣宏が「すごい」と唸った「すごい人」が語り尽くす「すごい話」の数々!

文芸・カルチャー

2013/7/24

 最近はテレビのバラエティ番組などでにこやかにコメンテーターを務めている、博学で知られる荒俣宏氏。その肩書は博物学者、小説家、収集家、妖怪評論家、翻訳家、大学客員教授などなど枚挙にいとまがない。

 荒俣氏は大学卒業後、水産会社での会社員の傍ら『世界幻想文学大系』(国書刊行会)を私淑する紀田順一郎氏と刊行。退社してフリーとなってからは、映画も大ヒットした小説「帝都物語」シリーズ(角川書店)を執筆。さらには「蟲類」「魚類」「両生・爬虫類」「鳥類」「哺乳類」「絶滅希少鳥類」「水生無脊椎動物」という全5巻+別巻2巻という圧倒的なボリュームを誇る『世界大博物図鑑』(平凡社)を約10年かけてひとりで執筆するなど、その博覧強記っぷりは他の追随を許さない(『世界大博物図鑑』は現在、電子書籍でリーズナブルな価格で手に入る)。

 また古本を購入するために莫大な借金を背負うなど、書籍収集マニアとしても知られる荒俣氏(『帝都物語』がヒットした際に手にした印税はほとんど本代に消えたという)。編集者・ライターの竹熊健太郎氏によると、荒俣氏はもともと少女漫画家になりたかったそうで、その漫画を描く資料を集める過程で資料のほうが面白くなってしまって現在に至っている、のだそうだ(笑)。

 そんな荒俣氏をして「すごい」と感嘆させる「すごい人」たちが繰り出す「すごい話」が収められた対談集『すごい人のすごい話』(荒俣宏/イースト・プレス)がとても面白い。

 長年河川行政に携わってきた元建設省の人とは、江戸の街を洪水から守るために築かれた日本堤の先へ吉原を作って、堤防の上を人に歩かせて踏み固めさせたエピソードに驚き、他にやっている人がいないからと渋滞学を研究し始めた先生とは、ペンキで線を引くだけで渋滞が緩和する話や人間の心理や自然な行動を利用する公共政策をすべきという提言に頷き、ハゲを研究する先生には「ワカメやコンブなどの海藻類は髪にいいのか」「シャンプーを使うと毛が抜けるのか」「白髪とスケベはハゲないのか」などと矢継ぎ早に質問し、人間の髪や体毛は1本1本が勝手なサイクルで動いているという話には「面白いなあ」と感嘆、ハゼを研究している天皇陛下をお手伝いして一緒にハゼを採取している博物館の人からは、陛下がなぜハゼを研究しているのかを教えてもらって納得。この他の対談も演歌、アメリカン・コミック、ウィルス、オランウータン、クジラ、生命、人の死に方、幕末大名、中国の建築、近代日本の大きな障害など、テーマは幅広く、多岐にわたっている。そうした様々なプロたちに、博識の荒俣氏がインタビューすることで、さらに世界が広がるという「すごい」本となっているのだ。

 この対談がスタートする際、荒俣氏が望んだのは「元気が出る歓談」をしたいということだったそうだ。そんな本書の最後は、脚本家の早坂暁氏との「四国のお遍路」についての対談が収録されている。生きること、そして死ぬことについて語り合い、最後に「人生に、希望の光が差してきた気がします」と感想を述べている。荒俣氏は「ともすれば暗い話題ばかりになりがちな昨今、その暗さを真正面から取り上げ、それでもなお生きる希望を失う必要はないという確信を得ることが、願いであった」とまえがきで語っているが、その言葉通り、読むことで様々な希望を得られる1冊となっている。日本の底力、まだまだ捨てたもんじゃない!

文=成田全(ナリタタモツ)