“難民の味”を集めたレシピ本が話題

社会

更新日:2013/8/1

 化学兵器の使用が取り沙汰され、いまだ厳しい情勢が続いているシリア内戦。犠牲者は10万人を超え、難民登録者は180万人に達しているという。

 シリアに限らず、世界には難民が数多く存在するが、日本に住む者にとっては「ネットカフェ難民」という言葉が頭をかすめる程度で、紛争や災害によって土地を離れざるを得ない“ほんとうの”難民については「遠い国の話」と思いがちではないだろうか。しかし、じつは日本にも難民として生きている人は少なくない。

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 今年5月に発売された『海を渡った故郷の味 Flavours Without Borders』(認定NPO法人 難民支援協会/ジュリアン)は、難民として日本にやってきた人たちのレシピを紹介した1冊。レシピのめずらしさと同時に、日本の難民事情も知ることができるとして、いま静かに話題を呼んでいるのだ。

 たとえば、「国を持たない世界最大の民族」といわれるクルド人難民は、埼玉県蕨市周辺に密集しており、蕨市は“ワラビスタン”とも呼ばれているほどだが、この本ではクルドの味として「キュウリとヨーグルトのサラダ」や「ピーマンとナスの肉詰め煮込み」などを取り上げている。この肉詰めは「ドルマ」という料理で、日本の肉詰めと大きく違うのはひき肉とともに米も混ぜ込む点。やさしくてボリュームあるメニューだ。

 また、ミャンマー(ビルマ)出身の女性が紹介しているのは、「きな粉入りビルマ風サラダうどん」。ビルマではひよこ豆の粉を使用するというが、それをきな粉で代用。茹でたうどんにナンプラーの風味が効いた鶏肉や生野菜、パクチー、きな粉などを和えた夏にはぴったりの一皿だ。このメニューを紹介する彼女は、夫が自国で民主化運動に参加し、身を守るべくひとり日本へ。7年ものあいだ離ればなれだったが、夫が難民認定を得て、ようやく日本で再会を果たしたそうだ。

 ハーブやスパイスが特徴的なのは、アゼリの料理。アゼリは「アゼルバイジャンとイランの北西部に暮らしている民族」だが、ここで紹介されている「ニラたっぷりの卵焼き」は、アゼリ地域で栽培が盛んだというニラを卵3個に対して3束も使ったメニュー。シナモンやカルダモン、ジンジャーのパウダーを加えて焼き上げた卵焼きの上には生のトマトをトッピング。これが相性ピッタリなのだ。この料理を紹介するアゼリ出身の男性は、日本に逃れてきて20年。独裁政権の支配に抵抗してきた彼は、「言論の自由はなかった。何度も政府に逮捕され、ついに、身の危険を感じ、逃げざるを得なかった」と述べている。

 「まだ、母国には帰れない。出来るならば、今すぐにでも戻りたい。そして、母国にいる母や兄弟と一緒に、食卓を囲みたい」──このアゼリ出身の男性と同じ思いを、多くの難民である人々が胸に抱いて、日本で暮らしているのだろう。そして、目にも美しい色とりどりの一品一品からは、彼らが故郷を思う気持ちが溢れているようだ。

 ちなみに、日本で難民申請を行った人の数は、昨年は過去最高の2545人だったが、1次審査で認定されたのはたったの5人。全体で0.3%というこの数字は、1次審査の認定率が41.9%のオーストラリア、25.1%のイギリス、11.7%の韓国と比べても圧倒的に低い。難民への理解はもちろん、この本を日本の難民保護問題についても考えるきっかけにしてほしい。