「~させて頂く」は「自分の都合」! バカに見える言葉遣いを一刀両断

人間関係

更新日:2014/4/28

 ドロドロ展開で視聴者の度肝を抜いた『想い出にかわるまで』や『週末婚』、相撲部屋を舞台とした朝ドラ『ひらり』、そして大河ドラマ『毛利元就』などを手掛けてきた脚本家の内館牧子氏。その内館氏が『カネを積まれても使いたくない日本語』(内館牧子/朝日新聞出版)という、なんとも挑戦的なタイトルの新書を上梓した。

 本書の帯には眉間にシワを寄せる内館氏のイラストと「その言葉、バカに見えるわよ」という大きな文字がバーンと踊り、そして小さく「愚かな日本語があなたを滅ぼす」とある。帯の裏には「ご覧頂く」「よろしいですか」「患者様」などが列記され、日常やテレビを見ていて気になった言葉をメモしてたという内館氏が「おや?」と思った言い回しなどが本書では数多く取り上げられ、なぜその言葉がおかしいのかを解説している。

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 その内館氏が昨今の言葉を考えていたときに感じたのが、「変化を許容する」「過剰なへり下り」「言質をとられたくない」という3つの心理が大きく影響していることだったそうだ。

 「変化を許容する」とは、「ら」抜き言葉など、変化していく言葉だ。古文の時間に、同じ日本語でも何と書いてあるのかを理解できなかったように、言葉というのは日々変化していく。例えば「見れる」「出れる」「食べれる」などはかなり市民権を得てきているが、最近ではこの「ら」抜き言葉に「れ」を足す妙な使い方が出てきているそうだ。あるスポーツ選手が大会に「出られること」になった感想をテレビで求められた際、「まさか、僕が出れれるとは……」と言ったそうだ。内館氏は「時代の流れ」と言われた日には理屈も通りも引っ込むが、許容に甘くなることは怖いと語っている。

 そして「過剰なへり下り」の最たる言葉は「~させて頂く」だろう。政治家が乱発するこの言葉、敬語ではあるが、「~てもらう」「~て頂く」は、相手のことは考えずに自分の都合でそうする、という含みを持つ言い方なのだそうだ。とても乱暴な言い方をすると「へり下るけど、お前のことなんて別に関係なく、俺やっちゃうよ?」ということだ。現在、東京都教育委員会で委員長職務代理者を務めている内館氏は、教育関係者でも「させて頂く」の乱用が激しく、「お示しをさせて頂いてございます」などと言われる機会があるそうで、個人的には「目に余る」と苦言を呈している。

 「言質をとられたくない」とは、明確に断言しない「~みたいな」「っぽい」などの言い回しだ。こうした言葉の乱用はその人を安っぽく見せる気がしてならないと言う内館氏だが、これらは現代人の生きにくさを表しているのかもしれないとも語っている。断定すると偉そうだと言われ、仲間はずれにされないために必要以上にへり下り、断定を回避することが「習い性」となって、その他すべてに影響を及ぼしてしまうというのだ。さらに内館氏は、「普通に」や「ですよね~」などの言葉から口調まで含む「ヘンな言葉」にも切り込んでいる。またこれらを受けた最後の章「誰が悪いのか」では、「汗をかく」や「遺憾」「しっかり、しっかり」「~してございます」など政治家がよく使う言葉がいかに変かをまるまる一章使って一刀両断している。これらの言葉、先日の参議院選挙で耳にして「おや?」と思った人も多いだろう。

 内館氏は「新語・造語、スラング・若者言葉」と「端正な国語」のバイリンガルを目指す上で、今こそ機が熟したのだと考えている、と本書執筆の動機を語っている。「時」「場所」「場合」を踏まえ、良い印象を与える言葉遣いを心がけたいものである。

文=成田全(ナリタタモツ)