醜い妻を殺して、美しい女房を…こわ~い怪談のウラに実話あり!?

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/23

 夏の風物詩、「怪談」。奇妙で、奇天烈で、恐ろしい話に、私たちはどうしようもなく惹かれてしまう。

 多くの人が初めて身近で触れる怪談と言えば、「トイレの花子さん」ではないだろうか。誰もいないはずのトイレで「花子さん」と声をかけると、「はい」となぜか返事が聞こえてくる…。

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 トイレをすみかにしている幽霊やおばけは、昔から多い。江戸の民間伝承や怪談が生まれた経緯に詳しい『怪談のウンチク101 大江戸オカルト事情の基礎知識』(髙山宗東/学研パブリッシング)によると、江戸時代にはトイレの神様“厠神”を祀る習わしがあったらしい。さらに遡ると、「埴安姫神(はにやすひめのかみ)」や「弥都波能売神(みづはのめのかみ)」の水や焼き物を司る神が住んでいるとされた。トイレの暗くて閉鎖的な空間に、古くから多くの人が、特別な何かを感じてきたのだろう。

 また、こうした想像は、昔からビジュアルに表現されてきた。『今昔妖怪大鑑 湯本豪一コレクション』(湯本豪一/パイインターナショナル)は、妖怪研究家・湯本豪一氏の約3000点からなる妖怪コレクションの一部を紹介。江戸時代の絵巻や錦絵、着物、武具などに種々の妖怪や幽霊などが描かれている。ほかにも、『ゼロからわかる! 図説 怪談: 幽霊・鬼・妖怪』(学研パブリッシング)では、手に女の首をぶら下げ、口から血を流す「幽霊図」など目が離せなくなる絵図でいっぱいだ。さらに同書では、有名な怪談も豊富に紹介している。例えば、「累が淵」という怪談をご存知だろうか。 

 昔、累(かさね)という女がいた。ある日、夫の与右衛門と畑から帰る途中、累は与右衛門に川へ突き落とされ、殺されてしまう。累はとても醜い顔をしていて、与右衛門はそれ疎んでの犯行だった。与右衛門は、累が誤って川に落ちて死んだということにして、新しいきれいな妻をもらったが、後妻はすぐに死んでしまう。そこで与右衛門は3人目の女房を迎えたが、それもまたすぐに病気で死んでしまう。そうして、4人目、5人目と迎えては死んでいった。ところが、6人目だけはすぐに死なず女の子を産んだ。女の子にはお菊という名をつけた。その後やはり六人目の女房も死んでしまったが、お菊は成長し、婿をもらった。しかし、お菊はあやしい病気にかかり、口から泡をふいて、のたうちまわって気絶した。与右衛門が介抱をしていると、お菊は息を吹き返して言った。

「わしは累じゃ。おのれは、よくもわしを殺したな。おのれの女房は、みんな憑り殺してやった。今度はおのれの番じゃ」

 …結末としては、祐天上人という現代でいうエクソシストが、怨霊祓いを行って累を成仏させるのに成功するが、与右衛門は累殺しが発覚してしまうというものだ。

 実はこれ、1672(寛文12)年に現実に起こった怨霊事件が元となっている。苦しむお菊を実在する祐天上人が救ったという記録が残っている。こうした説明のつかない出来事が起こるからこそ、目に見えない幽霊などの存在を生み出してしまうのかもしれない。

 火のないところに煙は立たず。怪談が生み出されたその背景を知れば、ますます背筋が凍る思いをするかも。

文=佐藤来未(Office Ti+)