懐古主義に超私的系、なかには反グルメ系も!…… 進化するグルメエッセイのいま

食・料理

2013/8/4

 グルメエッセイは、いつの時代も、私たちの食欲をかきたてるだけでなく、幸福な気分にさせてきた。流行や価値観など時代性が現れるのも見所のひとつといえる。古くは1954年刊行の『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』(暮らしの手帖社)。海外渡航が珍しかった当時、パリで生活していた著者が、日々の食事にまつわるエピソードをまとめ評判を呼んだ。オムレツをはじめ、目新しい西洋料理にはじめて触れた瞬間の驚きや憧れが、ひしひしと伝わってくる。近年ならば、角田光代の『今日もごちそうさまでした』(アスペクト)。30歳まで偏食気味だった著者が食材のおいしさに気づいていくあたりが、現代人のリアルな食生活にリンクしたのか、共感の声が多かった。

 では最近は? というと、ひとつ人気を集めているのが「懐古主義的」なもの。たとえば、古くから変わらない日本の味が愛おしい目線で綴られる『ステーキを下町で』(文藝春秋)。店のラインナップは高級料亭から定食屋まで幅広いものの、“銀座”“天ぷら”“浅草”“ステーキ”などの登場するキーワードには、“昭和の憧れ”要素が意図的に盛り込まれている。著者・平松洋子の女っぷり・食いっぷりの良い文体が、『孤独のグルメ』(扶桑社)の作者・谷口ジローによる精密な漫画表現と相まって、独特の渋さを醸し出しているのも特徴だ。

 もうひとつは「超私的」というキーワード。代表的なのが、カレーライスのエッセイ集『アンソロジー カレーライス』(パルコ出版)。池波正太郎から中島らも、藤原新也、阿川佐和子など33人の豪華なメンツの “カレー・エピソード”をまとめたものだ。すべて“超私的”な思い出がベースのエッセイなのだが、大衆性を持つ“国民食”カレーライスゆえに、読み手を自然と懐かしい気分にさせてくれる。

 とあの手この手で読者を楽しませてくれるグルメエッセイだが、最後に“食欲をそそる”という同ジャンルの定義に当てはまらない反グルメ的な(?)作品を紹介したい。それは、水木しげるの『ちゃんと食えば、幸せになる 水木三兄弟の日々是元気』(保健同人社)。長寿で知られる著者とその兄弟が、その源ともえいえる「食」にどう向き合っているかが主な内容なのだが、その内容が強烈。たとえば“腐りかけのバナナが一番おいしい”などと言い切り、独断と偏見で食を斬っていく様は、なんとも痛快だ。食物連鎖の頂点にいながら自然を破壊する現代人への風刺も混じり、飽食の時代に警鐘を鳴らすような一面も感じられる。

 「食の環境」という意味では、世界でも有数の日本。グルメエッセイもそんな国だからこそ、可能性に限界はないのかも。

文=池尾 優(ユーフォリアファクトリー)