Hがなくても萌える! ノンケ同士の恋愛を描いたBLが話題!

BL

公開日:2013/8/4

 BLといえば、男同士の激しいセックスシーンが不可欠……そんなふうに思っている人が多いかもしれない。しかし、そんな描写が一切ないのに最近人気になっている作品がある。それが、6月28日に発売された『CANIS―Dear Mr.Rain―』(ZAKK/茜新社)だ。これは、帽子屋の沓名聡と道に落ちていた謎の男・柏葉リョウのお話で、2人ともノンケだしセックスはもちろん甘いキスシーンもないのになぜか腐女子の間で注目されているようだ。その理由とは、いったい何なのだろうか?

 この作品のポイントは、まず、直接的にエロいシーンはなくても自然と交わされる無自覚な絡みにある。毎回髪の毛を拭かずにお風呂から出てくるリョウを見て、「わざとか! わざとやってんのか!」とじゃれながらわしゃわしゃと髪を拭いてあげる聡。それだけでもたまらないが、朝から聡が歯磨きをしながらリョウと会話するシーンでは、ちゃんと言葉を交わしているのに寝ぼけてリョウのハブラシを使ってしまう。また、2人でウィンドウショッピングに出かけリョウでファッションショーをして遊んだり、そうかと思えばリョウのお腹が鳴ると聡は肩をポンとたたいて「遊んで悪かった帰ろうな」と言い、リョウも笑顔で「うんっ」とうなずく。こんな何気ない日常で繰り広げられるやりとりにも、腐女子レーダーはビンビンに反応してしまうのだ。

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 また、聡がだんだん自分の気持ちに気づいていく過程が、じれったいからこそよりドキドキする。はじめは、店のスタッフが足りないときに道端で倒れていたリョウを見つけ、仕事として「こいつ……使える!!」と思っていただけだった。でも、リョウにいろんな帽子をかぶせていると「次々とアイディアがあふれて」くるし、リョウにも「すーっごく楽しそう」と言われる。このときは、まだこの不思議な感覚を理解できていなかったが、リョウがいなくなると仕事が手につかなくなり、スタッフが聡の帽子に「一目惚れ」したと話すのを聞いてはじめて自分が10コも年下の男に「一目惚れ」していたことに気づき、赤面する。その後は、もう会えないと知っていながら、雨の中で無意識にリョウを探してしまうのだ。こんなふうに聡の気持ちの変化を一緒に追うことができるので、まるで自分も恋をしているかのように切なくなる。

 でも、やはりこの作品のいちばんの魅力は、お互いを必要とし、心の隙間を埋めあう関係性だろう。店のスタッフが足りなくて困っていた聡は、仕事のために「頼む! 俺にはお前が必要なんだ!!」と言っていたが、だんだん仕事以外でもリョウの存在が大きくなる。仕事で嫌なことがあっても、家に帰れば笑顔で迎えてくれるリョウがいる。彼の存在を昔飼っていた犬の小太郎と重ねてしまうこともあるけど、リョウに頼りにされていると知って嬉しくなったり。一方のリョウは、親から捨てられてマフィアの狗として生きてきたが、結局最後には自分だけ残されてみんな死んでしまった。行き場もなくて、死に場所を探していたリョウだったが、死に損なったときに思ったことは聡の温かい手に「もう一度触れてほしい……」ということだった。そんなリョウに「お願いだからいらないなんて言わないでそばに置いて……命令でいいから声をかけてくれ…!」と言われたら放っておけないし、「甘えてもいいと思える人サトルさんが初めてなんだ」なんて素直に甘えられたら、聡じゃなくてもリョウのことがかわいく見えてしまうかもしれない。

 BLは関係性に萌えるものだとよくいわれるが、実際にセックス描写そのものよりもそこに至るまでの悩みや葛藤。気持ちや関係が変化していく様子に重きを置いている作品も少なくない。近年、読者からの人気も非常に高い。『CANIS―Dear Mr.Rain―』も、2人の関係性にスポットを当ててじっくり描いたからこそ、腐女子の心をがっちり掴んだのだろう。今後は、こういったノンケBLとでもいうべき作品も増えていくのかもしれない。

文=小里樹