新型うつは結局病気なのか、サボりなのか?

社会

公開日:2013/8/7

趣味の時間には元気なのに、仕事中はうつになる……通称“新型うつ病”が社会問題になっている。常にうつ状態が続く従来のうつ病とは異なるため、「ただのサボリなのでは?」とみる向きもあるが、先日、日本うつ病学会は総会で「適切な診断が必要」と発表した。同学会は、昨年7月に新型うつ病について「医学的知見の明確な裏打ちはない」としていたが、患者数の増加から方向転換を決めたと思われる。医師のあいだでも、どのように対応すべきか混乱があるのかもしれない。

 しかし、混乱しているのは医師だけではない。職場ではうつ、でも退社後には元気に飲み会に参加……という同僚や部下、上司に納得できず、モヤモヤしている人も多いだろう。果たして、新型うつ病というのは病気なのか、それとも甘えなのだろうか。ネットで人気のサイト「Dr 林のこころと脳の相談室」の管理人で、精神科医の林公一氏がまとめた『擬態うつ病/新型うつ病 実例からみる対応法』(保健同人社)から、この問題を考えてみよう。

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 まず、著者は新型うつ病を「うつ病ではありません」と断言する。うつ病と新型うつ病を比較すると、うつ病の人は自分が病気であることを認めないものだが、新型うつ病の場合は「自分がうつ病であると積極的に主張する」。また、うつ病の人は「今の自分の悩みは、自分に責任がある」と考えて自分を責めるが、新型うつ病の人は「他人を責める」のが特徴である。これは「まったく正反対ともいえる病態」といってもいいだろう。たしかに新型うつ病でも診察時や職場ではうつ病の症状が見られるのだが、従来のうつ病とは大きく違うのだ。

 では、新型うつ病とは何なのか。著者は「新型うつ病は、公式の診断名にあてはめれば、適応障害が大部分です」という。適応障害とは「ストレスを原因とするメンタル不調」。新型うつ病はストレスや不況を理由に増加しているといわれることは多いが、それも「医学的には間違い」で、「ストレスや不況で増えるのは適応障害であって、うつ病ではありません」と述べている。

 しかし、適応障害にもさまざまなパターンがある。たとえば、あまりに過酷な職場環境が原因になって自殺未遂まで至るようなケース。これは「最大級」のストレスが要因だ。このような場合は薬と休養をとり、叱咤激励は厳禁という「うつ病と同じ対応」が求められる。だが、「うつ病だから」と言って仕事もせず、そのわりに毎週飲み歩くような場合は、「ただの甘え」。「本人の資質」ともいうべき問題が要因になっているので、薬を飲んだところでよくなるはずがない。重要なのは「本人の問題であることの指摘・認識」だという。ただし、ストレスが要因か本人が要因になっているかがはっきりしないケースもあるので、「慎重な分析と対応が必要」である。

 一方、産業カウンセラーとして多くの事例を担当してきたという著者による『「新型うつ」な人々』(見波利幸/日本経済新聞出版社)では、新型うつ病になりやすい人の特徴として、「主体性がなく受け身」「将来に対する展望がない」「わからないことがあっても人に訊けない」「熱中した経験がない」「運動があまり好きではない」の5つを挙げ、新型うつを「モラトリアムうつ」と名付けている。また、コミュニケーションが希薄な時代に育った若者世代にとっては、上司から叱られることさえ大きな挫折になることがあるといい、ひきこもりをはじめ、こうした問題を抱える人が急増している理由を教育や家庭といった社会の問題であるとしている。

 「ただのサボリ」と断罪するのは簡単だが、それでは物事は前に進まない。新型うつ病にどのように対応すればいいのか、こういった本で実際のさまざまなケースを知っておくといいだろう。