「既読スルー」をストレスに感じる理由とは?

社会

更新日:2013/8/19

 「KS」という言葉をご存知だろうか。これは「既読スルー」の頭文字をとったもの。「スルー(through)なら、頭文字はTだろう!」と思わずツッコみたくなるが「既読無視」という言葉とともに流行している。

 これは、今や国内ユーザー数4500万人の大人気、無料通話アプリ・LINEに関する言葉。チャット感覚での素早いやりとりは魅力的だが、最近では「LINE疲れ」を起こす若者が多く、特にメッセージを読んだかどうか分かってしまう「既読機能」はかなりのストレスになっているようだ。即返信しないと、「KSかよ!(既読スルーかよ!)」と叱られてしまうらしい。

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 精神科医の香山リカ氏の『生きづらい〈私〉たち 心に穴が空いている』(講談社)によれば、 現代の若者の間に従来の精神医学の概念の枠だけで説明できない問題が起きているらしい。周りからの印象と本人の実感が全く異なる現代人が増えているのだそうだ。

 現代人は周りから見れば、友達が多く社交的に見えるのに、本人は自分を理解している人が居ないという孤独を抱えている。他人の言葉に敏感で、周囲に合わせたい気持ちが人一番強く、ストレスも抱えがち。時には「死にたい」「消えてなくなりたい」と思うこともあるようだ。

 これは、他人からの客観的な視線と、主観的な自分の両極性に引き裂かれた「解離的」な状態だと香山氏は指摘する。現代人は、周りに合わせている自分と本当の自分の差に苦しみを覚えやすく、その苦しさから脱するために、異常なまでに他との繋がりを重んじ、裏切りは許さないのだという。

 その原因として香山氏はインターネットの出現を指摘している。インターネットにおける交流は現代人に「ネット人格」を作ることを促し、解離のメカニズムを発動させる機会が増やしてしまった。特にSNSは毎日が同窓会、と言われるように人に背伸びを強いる。インターネットは人と人との関係を革新的に変え、その結果として、人の心のありかたそのものを大きく変容させてしまったのだ。

 現代人は人との繋がりを強く重んじ、だからこそ傷つけられやすい。だが、一方で「今の若者は昔とは違う」と強く線引きしてもいけないだろう。「夜遅くまで友達とLINEしちゃうのは、昔の若者がオールナイトニッポンを聞いて一晩過ごしたのと似た感覚」という発言をTwitter上で見かけたことがあるが、昔はラジオを聞きながら人との繋がりを感じたように、今はLINEで人と密に繋がっているのだ。LINEのグループ機能を使えば、数人のグループ内だけでより密で会話が手軽にできる。それは時に排他的だが、強い一体感を感じさせるものでもある。コミュニケーションをとる頻度が増え、問題が起こるきっかけが増えてしまっているのかもしれない。

 今の若者をアブナイと言う前に、若者の心にぽっかり穴が空いているという事実に目を向けるべきだろう。あの子の心に空いた穴を埋めるのはアナタかもしれない。

文 = アサトーミナミ