百田尚樹が描く“主人公”は他人のために、世の中のために戦う

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/23

 遅咲きにして型破り。とにかくパワフルで人間臭い。作品のみならず、その言動にも多くの視線が注がれている作家・百田尚樹。テレビの放送作家を経て50歳で小説家デビュー。今年、57歳で『海賊とよばれた男』で本屋大賞を受賞。年末には『永遠の0』映画公開も控え、ついに本作がオリコン歴代文庫売り上げ1位も獲得! 『ダ・ヴィンチ』10月号ではそんな百田尚樹を徹底特集。読者の選んだ作品の感動エピソードや、雑誌でしか読めない書き下ろし新作小説も掲載。また、その年譜と共にロングインタビューを掲載している。

「一度書いたジャンルは、もう一度書く気はないんです。シリーズものは絶対書く気ないですし、スピンアウトものも書く気ない。だって、書いてる自分を想像しても面白くなさそうですもん。“またこの世界か!”と。“前に一回書いたやないか!”と、文句言ってる姿しか思い浮かばない(笑)。一度当たった同じジャンルやシリーズものを書いたほうが、ビジネス的には有利だし、読者も望んでいるのはわかっているのですが。新しいジャンルを書くのはリスクも高い。売れにくいですし、読者をがっかりさせるかもしれない。でも、それを怖れてたら作家なんかやってても仕方がない」

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 毎作ジャンルはバラバラだが、共通点はある。「戦う主人公」だ。「実は“百田さんの小説は全部戦ってますね?”と人に言われて気が付いたんです。たしかに僕の作品の主人公は、女性にしても男性にしても、あるいはハチにしても、とにかくみんな、とことん戦うんですよね。『永遠の0』の宮部久蔵は生きるために戦うし、『風の中のマリア』は自分の巣のため、妹たちのためにとことん戦います。『モンスター』のヒロインは、不細工に生まれて虐げられた社会に対して、逃げずに戦いますよね。『ボックス!』なんて、ボクシングの戦いがもろに描かれている。あえて自己分析すると、僕は人生って、戦いやと思ってるんですね。困難にぶつかった時に、逃げたり怯んだりするんじゃなくて、あえて正面突破して戦う。それやないとね、“人生、面白くない!”と思うんです」

 共通点はもうひとつある。主人公達はみな、人のため、世の中のために生きようとするのだ。そのためには、自分の命を燃やすこともいとわない。百田作品が「泣ける」と評される理由は、おそらくここにある。

「僕自身、若い時は、たった一人で生きてるんだ、みたいな傲慢な気持ちで生きていました。結婚して子供もできて、50歳も越えてね。ようやく、人間というのは所詮、一人では生きていけないと心底痛感したんです。ほんとに多くの人に助けられてここまできたと思っているし、僕も何か人の役に立ちたいという思いもあります。自分一人のために、いかに英雄的に生きてもね、それはむなしいだけですよ。仮に人に知られることはなくとも、他人のために生きた人生というのは、もっとも美しい人生じゃないかと思うんです」

取材・文=吉田大助

(『ダ・ヴィンチ』10月号「百田尚樹」特集より)