現代人が武士から何を学ぶ!? 各種『武士道入門』を読みまくった結果わかったこと

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公開日:2013/9/18

 TPP加盟に向けた交渉が進み、いよいよグローバル化の波へ本格的に飲み込まれていくことになるニッポン。そんな中、何度目かのブームを迎える気配を見せているのが「武士道」だ。特に今年に入ってからは、武士道をテーマとした書籍やムックが何冊も発売されており、なかにはコンビニで扱われているものもあるという。

 肉まんを買ったついでに武士道でも学ぼうか、と考える人がどれくらいいるのかは不明だが、コンビニで買えるということは、それだけの需要がある証拠。今、なぜ再び武士道が注目されつつあるのか? サムライらしくズバッと即座にその解説をしたいところだが…。あいにくこちとら、武士道にはまったく疎いクチ。そこで、読者になりかわり、最近発売された入門書を読みまくり、武士道のなんたるかを探ってみた。

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 まずはじめに驚かされたのが、現在語られている「武士道」が、明治も後期に入ってから“再構築された”ものであったということ。5000円札で有名だった新渡戸稲造(農学者・教育者)が、海外向けに、日本人特有の倫理・道徳観を紹介するべく書いた『Bushido: The Soul of Japan』がそのベース。しかも、海外で火が付いた後、日本に逆輸入され普及したというのだから、まさにグローバル!! ちなみに、新渡戸バージョンの武士道は、従来の武士道に比べ、自身が信仰していたキリスト教の影響が強く反映しているという批判を受けることもあったという。

 で、肝心の内容だが。簡単にいえば、江戸時代以前の特権階級であった武士が、その特権に見合うよう己を律し磨くために定めたルールをまとめたもの。卑怯や不正を憎む気持ち(義)、正義のために己を犠牲にしてでも立ち上がる気概(勇)、他人の気持ちを尊重する心(礼)などについて、その意味と大切さを説いている。大半が現代でも通じる…というか、要するに人として欠かしてはいけない道徳に関する教えなのだが、そうした精神のすべての根本に「名誉」を重んじる考えがある点が、武士道ならではの特徴といえるだろう。なお、武士道と聞いて多くの人が思い出す「死ぬことと見つけたり」というフレーズは、新渡戸の『武士道』ではなく、最近では山口貴由の『シグルイ』で注目された、江戸中期に書かれた『葉隠』にあるもの。「どちらの道をゆくか迷ったら、より死にそうなほうを選べ」など、過激なまでに、死よりも「恥」をおそれる思想で貫かれたこちらのほうが、武士道としてシックリくると感じてしまう人も多そうだ。

 日本が国際社会にデビューした明治期に誕生し、軍国主義時代には国への忠誠を至上とする“教典”として利用されたこともあった『武士道』。戦後も、高度経済成長やバブル崩壊など、国が大きく動くタイミングで注目されてきた。先にも書いたが、そもそも新渡戸の『武士道』は、西欧のように特定の宗教が倫理・道徳のベースとなっていない日本人の行動規範を、武士の生き様を例に体系化したもの。いわば、日本人のアイデンティティを明示したはじめての書なのである。そう考えれば、昨今のグローバル化で国の先行きを不安視する人たちが、あらためて武士道に興味をおぼえるのも納得がいくはずだ。7年後の東京オリンピックも決定し、仕事に限らず、海外との交流がますます増えていくこの先。グローバル社会における日本人としての生き方、世界との向き合い方に戸惑ったとき、武士道から学べるヒントが数多くあるのではないだろうか。まずは、お近くのコンビニまで!?

文=石井武士郎