「M資金が題材の映画」という言い方自体が詐欺っぽい(笑)― 『人類資金』監督・阪本順治インタビュー

映画

公開日:2013/9/22

 佐藤浩市、香取慎吾、森山未來、豊川悦司……錚々たるメンバーで今秋映画化される社会派エンターテインメント『人類資金』。原作は福井晴敏、監督は阪本順治という『亡国のイージス』コンビだ。物語の鍵となるのは、敗戦後の日本でGHQによって運用されたといわれる謎の 。戦後最大の闇といわれ、さまざまな詐欺事件も頻発した は、阪本自身もっとも撮りたいテーマとして、長年温め続けてきたものだったという。

ダ・ヴィンチ』10月号では、監督・阪本順治に、本作公開に至るまでのさまざまなエピソードをインタビュー。

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 33年前に『M資金 知られざる地下金融の世界』(高野孟/日本経済新聞社)という書籍と出会い、強烈に惹かれました。当時、僕は映画作りの現場に入りたてだったんですが、監督になったら、M資金というテーマで映画をつくりたいと心に決めてしまった。最初から光が当たっているものに、わざわざライトを浴びせる必要はない。陰にあるもの、闇にあるものにライトを当てるのが、映画の意義。僕にとってその最たるものが、日本の戦後史最大の闇である、M資金だったんです。

 福井さんに僕からお願いしたのは、「M資金を題材にした現代劇で、主演は佐藤浩市」。それだけです。2010年にプロットがあがってきた時は驚きましたね。『人類資金』というタイトルが付けられていて、M資金の「M」に対しての大胆な仮説があり、世界各国を舞台にしたオリジナリティあふれるストーリーになっていた。プロットを待っている間、実は戦後史だとか詐欺の手口といった書物ばかり読んでいたんです。ところが福井さんが出してきたものは、M資金を入口にしながらも、今の資本主義経済やグローバリズム、国際援助といった大きなテーマへと広がっていくものだった。正直驚いたけれど、いま映画を創るなら、こっちだろうと。イチから金融や経済を勉強しましたね。

 プロットをもとに僕のほうで脚本作りを始め、その間、プロデューサーは映画の資金集めに走り回っていたんですが、なかなかお金が集まらない。「M資金を題材にした映画なんです」という言い方自体、詐欺っぽいですよね(笑)。元横綱の朝青龍が、数年前にM資金詐欺で騙されたというニュースも話題になりました。

 そんななか、プロデューサーが長いこと交渉していた国連から、2012年5月から夏の間であれば撮影を許可するという連絡がきた。ニューヨークにある国連本部は、映画のクライマックスシーンの舞台。絶対に撮影しなければならない。だから借金して、見切り発車で撮りに行ったんですよ。そうした無謀な行為が業界の中で「あいつら本気だ」と認められ、この映画に興味を持ってくれた人がたくさん現れたんです。

 本誌特集では、原作者の福井晴敏のインタビュー、経済学者・飯田康之や社会学者・古市憲寿による「10兆円」という金の実力、用途についてのシミュレーション、さらに、福井と俳優・森山未來の対談も掲載。

取材・文=吉田大助
(『ダ・ヴィンチ』10月号「文庫ダ・ヴィンチスペシャル なぜ、いま『人類資金』なのか」より)