“ちょいワル”から“リアル”へ オヤジ向けファッション誌に何が起きているのか

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更新日:2013/9/23

『OCEANS』2013年10月号(インターナショナル・ラグジュアリー・メディア)

『OCEANS』2013年10月号(インターナショナル・ラグジュアリー・メディア)

 「雑誌が元気ない」と言われて久しい。しかし、オヤジ向け男性ファッション誌が元気との噂が。いったい何が起きているのだろう。『ダ・ヴィンチ』10月号では、この現象に目をつけたライターの北尾トロが、編集者に突撃取材。低迷の時代を新発想で乗り切る男性誌の実態が見えてきた!

 ――2006年に創刊された『OCEANS』。“男として、父として、カッコよくあるために”をキャッチフレーズにスタートしたが、太田祐二編集長によると初期はなかなか伸びなかったという。

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「大人向け男性誌はこれまで、原則として家庭や子どもの話題を避けてきたんです。生活感が漂うものから目を背けてきたんですね。うちもその“常識”に縛られ、中途半端な内容になっていました。部数は伸びない、広告は入らない。おまけにリーマンショックが重なって、どん底時代を経験しました」

 一時は存続の危機もあったらしいから深刻だ。かろうじて生き延びたのも、将来性を見込んでのことではなく、同誌に対し社長の思い入れがあったからだった。売れないままでは未来がない。

 太田さんは元『LEON』編集部。ちょいワル路線は話題になり成功したが、後発誌が同じ方法論でやっていたのでは先達を超えることなどできないと考え直す。自身と同年代の37.5歳をメインターゲットに定め、何が求められているかを考え抜いた。

 そこから導かれた答えが、原則にこだわるのをやめることだった。男性ファッション誌は男の憧れが詰め込まれたものという概念を捨てるのだ。リアルなものも取り入れていく。ギャンブルだが、生き残るにはそれしかない。

「雑誌のテイストをカジュアルに絞り込み、内容的にはONとOFF両方ではなくOFFタイムの提案を重視するようにしました。憧れとリアルのバランスを取りながら編集する中で、日本人のおっさんのリアリティを前面に出した名物企画、“街角パパラッチ”が生まれたんです」

 この企画が斬新なのは、ストリート系男性誌や女性誌が得意とする街頭スナップのオヤジ版を大特集したこと。外人モデルから日本人モデル中心に切り替え成功した雑誌もあるが、この雑誌はもっと攻めている。オシャレなオヤジであれば50代、60代でも積極的に登場させるのだ。ひとりで、夫婦で、家族で。中心にいるのはオヤジたちだ。特集のみならず、表紙にまでオヤジてんこ盛り。こんなファッション誌、かつてなかった。

 なぜこれが成立するか。一般オヤジがカッコいいからである。年を重ねても洒落っ気を失わない人がたくさんいるのだ。私はこれ、戦後、男性ファッション誌が営々と積み重ねたことの成果だと思う。『OCEANS』は現在、実売部数で6万部くらい。このスタイルだと、広告も高級腕時計や高級車、ブランド服からカジュアルファッションまで幅広く受け入れられる。極端な話、ベビーカーの広告だって似合ってしまう。なるほどなあ。

 同誌では、男性ファッション誌の歴史と変遷をたどるとともに、「オシャレな本好き男を登場させて、世の本好きオヤジもファッションに目覚めさせよう」と体当たり企画を実施。果たしてうまくいくだろうか? 

取材・文=北尾トロ