WEB官能&BL(24)葵居ゆゆ『つないであなたのものにして』

更新日:2013/10/1

葵居ゆゆ『つないであなたのものにして』

 あんたが振り向いてくれないのなら、もう――。片想いの相手に応えてもらえないことを思い知った夜、香矢(こうし)は顔も知らない男に身をゆだねることを決めた……。危険な“火遊び”の行方は?

 

 人の感情はそれほど複雑じゃない、と香矢(こうし)は思う。読み取るのが難しい感情なんてめったにない。嫉妬の薄暗い色や、得意気になったときの膨れた熱、喜びのぱちぱちした波。

 欲望はひたひたと揺れている感じがする。香矢はその今にも溢れそうな雰囲気を感じ取りながら、意味ありげな微笑みを相手に返してみせた。よく来るバーのカウンターで、隣に座った男は「高橋です」と自己紹介したのが二十分前、今は前につきあった男の話をしている。ナンパした相手に話すことかよと思うが、彼なりの「俺は損のない相手だよ」というアピールなのだと思えば可愛げがあった。

(香矢は、そうやって皮肉っぽい言い方をしなければ、すごく優しい子なんですけどね)

 ふと苦笑した叔父の顔が脳裏をよぎって、香矢はグラスの中身をあおった。これから男と寝ようというときに思い出したい顔ではない。出がけに鉢合わせて「今日も夜遊びですか?」と眉をひそめられ、久しぶりに本気で腹をたてたばかりだった。

 あんたが悪いんだろ、という台詞を投げつけてやれればすっきりするだろうに、言えば叔父が困ったように顔を伏せるのがわかりきっていたから、香矢は黙ったまま出てきた。

「コウくん? そろそろ移動する?」

 不機嫌が顔に出たのか、高橋が慌てたように声をかけてきた。香矢は咄嗟に微笑み返す。

「そうだね、そうしようか」

 年上相手でも敬語を使わないのは、高橋にはそのほうがよさそうだから。もの慣れて美しいゲイと寝る、という彼の夢を無下に壊すのも大人げない。香矢が微笑むと、彼はあからさまにほっとした。

「コウくんてほんと、美人だなあ」

「ありがとう」

 微笑んで、嬉しくないよと心の中だけで言い返す。どんなに見目よくたって、射止めたい相手に振り向かれなければ意味がない。

 

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