日本の餃子はなぜ“焼き”が定番なのか? 定番メニューの「源流」を探る!

食・料理

更新日:2013/10/3

 「じぇじぇじぇ」という流行語も生み出し大ヒットとなった、NHK連続テレビ小説『あまちゃん』。放送が終わってしまったことを悲しむ「あまロス」(あまちゃんロス症候群)という言葉までできるなど、なかなか次をやりづらそうな雰囲気(?)の中、9月30日から始まったのが、杏主演の『ごちそうさん』だ。東京の洋食店の娘で、無類の食いしん坊という明治生まれのヒロイン・卯野め以子が、明治~大正~昭和という激動の時代を生きるというストーリーで、かなりの変化球だった『あまちゃん』に比べると「朝ドラの王道」といっていい設定だ。

 そして食いしん坊が主人公だけあって「食べ物」がふんだんに登場し、毎日何かしら食べるシーンがあるのも『ごちそうさん』の特徴だ。め以子の実家の洋食、生まれ育った関東の味、そして結婚を機に大阪へと移るそうで、そこからは関西の食べ物も登場するそうだが、め以子の生きた明治から昭和という時代は「日本の食文化」がガラッと変わった時代でもある。明治に入り、それまで約1200年間禁止されていた肉食が解禁となり(一部地域などでは食べられていた)、「牛鍋」のような新しいメニューが生まれたり、洋食文化が取り入れられたりして、日本は世界でも類稀な豊かな食文化を形成していくことになった。

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 そんな中で生まれた、日本人になじみのあるメニューを取り上げた『ニッポン定番メニュー事始め』(澁川祐子:著、石黒謙吾:他/彩流社)では、そのメニューが、いつ、どこで、誰が考えて、どのように始まり、根付いていったのかを探っている。しかし著者の澁井氏によると、身近な食のルーツはある程度解明されており、ネット検索でも詳しい情報が手に入るので、すでに知られている情報をなぞっても仕方ないと考えたという。そこで食のルーツに自分が首を突っ込むのであれば、中立の立場を保つため「元祖」とされる店から直接話は聞かないという方針を立てたそうだ。そして膨大な数の資料にあたり、そのメニューの「源流」を探しまくり、なぜその作り方や味になったのかを考えに考え抜いたという。

 本書に登場するメニューは、カレー、餃子、牛丼、ナポリタン、インスタントラーメン、コロッケ、冷やし中華、モンブラン、しゃぶしゃぶ、テリヤキバーガー、ちゃんぽん、オムライス、メロンパン、とんかつ、肉じゃが、中華まん、クリームシチュー、焼肉、日本のアイス、ドリア、焼きそば、ハヤシライス、タコライス、エビフライ、あんぱん、天丼の全26種。様々な文献にあたっていたところ、通説を揺るがすような記述を多く見つけたそうだが、調べれば調べるほど迷宮にはまり込んでいったメニューもあったそうで、身近なはずの食べ物なのに「予想以上にわからないことだらけ」で「歴史は作られるもの」という言葉を実感したという。

 本書によると、日本独自のメニューアレンジの特色は、いかに米に合うかを考えてアレンジを加えていることだ。中国では蒸すか茹でるのが普通の「餃子」が、日本で「焼き」がスタンダードになったのは、油の香ばしさが米食に適していて、さらに中国では使われないにんにくやラー油なども取り入れて「いかにごはんが進むか」を物差しとして進化したものなんだそうだ。またしゃぶしゃぶの肉がなぜあれほどにまで肉が薄いのかという「原因」が、ルーツであるモンゴルの気候が関係していたり、牛丼やラーメンが普及したのは関東大震災が背景であること、とんかつが登場したのは日清・日露戦争と軍隊の食事に源流があったり、フランス語で「白い山」を意味するモンブランがなぜ黄色いマロンクリームなのかなど、興味深い内容が目白押しだ。そして読んでいると、無性に腹が減ってくる。そんな身近な定番メニューが、多くの人の知恵と様々な歴史をくぐり抜けてきたことに感謝したくなる1冊だ。

文=成田全(ナリタタモツ)