転職19回の34歳女性が銀座のホステスを経験して気づいたこと

ビジネス

公開日:2013/10/6

 昨年から盛んに取り沙汰されているアベノミクス。その影響によって、日本経済は回復の兆しが見えている。また、経済や社会情勢が落ち着いたことで、自身の仕事に目を向ける余裕ができ、やりがいや年収アップ、キャリアアップを目指して転職を希望する人が増えているそうだ。

 そんな中、2012年の1年間を「やりたいことをみつけて自分らしく生きていく」ための職探しにとことん費やした人物がいる。『そんな仕事ならやめちゃえば? 本当にやりたいことを教えてくれる! オーバー30からの天職探し』(ソフトバンククリエイティブ)の著者、阿部 涼さんである。

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「金もなし、コネなし、男なし」という三拍子そろった34歳の彼女は、これまでに19回も転職を経験しているという。1社目の不動産会社では、客を車で案内中に交通事故に巻き込まれて退社。次の会社には受付嬢として入社したが、新社屋内で使用されていた新建材によって化学物質過敏症を発病し退社。その後も不運続きで自暴自棄になり、電車が走る線路に飛び込みかけたという彼女が、失うものはないと一念発起。35歳までに本当にやりたいことを探そうと、なけなしの現金98万円を手に決めた、転職活動の掟3ヵ条がこちら。

(1) 「期限は一年間。資源は今、手元にある現金&働いた報酬のみ」
(2) 「嘘をつかないこと。それは自分の心にも経歴にも年齢にも、他人にも」
(3) 「純度200%。自分がワクワクドキドキ好奇心をもてる仕事に就くこと」

 そもそも、不運続きだったとはいえ、なぜ19回も転職をしなければならなかったのか?

 彼女は、世間体や報酬ばかりを優先して職業を選び、その結果、失敗を繰り返してきたことが理由だという。だから、人の目を度外視した(3)“自分がワクワクする仕事”という条件が重要だった。

 そうして彼女が1年間天職探しのために体験したのは、興味と憧れで飛び込んだ銀座のホステス、“命の洗濯”と称した山修行、北海道を舞台にした住み込みでの牧場の手伝いである。さまざまな人に触れ、揉まれ、刺激を受けて、彼女の姿が次第に浮き彫りになっていく。

 その第一歩になったのではないかと思われるのが、ホステスのときの体験談のひとつ。初めて呼ばれた客に開口一番、「で、ぶっちゃけ何回通えばヤラセテくれるの?」と言われる。その威圧感にたじろいでいると、「女の子、チェンジ」との声が。悔しさと腹立たしさに呆然とする彼女に、さらに「目障り」との追い打ちがかかる。あまりの屈辱に震える声で彼女は、「誰かに傍にいてほしい夜もあります。でもそれが今夜なのか、三年後なのか、そんなのわたしにだってわかりません!」と渾身の一撃を繰り出す。客は、冗談だ、と水割りを作ってくれたそう。

 ここで、彼女はひとつ大きなことに気付く。銀座のホステスだからといって、気の利いた言葉ばかりが求められているわけではないことだ。

 これまで「うまくやろう」ということばかりに気を取られていたという。どこの職場でも周囲から浮かないことばかり考え、「失敗しないこと」を優先。でもそれは、「失敗することを怖がっていた」のではなく、「失敗して人にどう思われるか?」が怖かったのだ。失うものはないと、捨て身になって飛び込んだからこそ、手に入れた真実だったのではないだろうか。

 1年の活動を経て、彼女は、どうせダメだと心の奥底に眠らせて封じ込めていたライターの仕事にチャレンジすることを決意。コンプレックスを受け入れて、失敗を怖がらないことを体得して、初めてたどり着いた仕事だった。

 門戸が広く開かれつつある転職の道。でも、なぜ転職をするのか、もう一度腰を据えてじっくり考えてみたい。その根っこを見つけることが、天職に行き着くカギになるかも。

文=佐藤来未(Office Ti+)