朝ドラ『ごちそうさん』の美味しそうな料理たちを手がける達人とは

テレビ

更新日:2013/10/18

 今年上半期の話題をひとりじめしたNHKの朝ドラ『あまちゃん』が終わって、“あまロス症候群”に陥るかと思いきや、視聴者は早くも新朝ドラ『ごちそうさん』に関心を寄せている。第1週、第2週ともに平均視聴率が20%超を記録し(ビデオリサーチ調べ)快調に飛ばす中、注目を集めているのがドラマに出てくるお料理たちだ。

 物語は、洋食屋『開明軒』のひとり娘、食いしん坊な東京娘・め以子(杏)と、大阪男の大学生が恋に落ち、東西の食文化の違いを理解しながらともに成長していくというストーリー。“食べることは生きること”がテーマなだけあって、料理はいわば第2の主役。ゆえに毎回、非常に美味しそうなご飯が登場する。第1週はめ以子が生み出した「オムレットライス」がフィーチャーされ、“赤なすご飯の上にのってる、とろっとろの黄色い卵がめちゃめちゃ美味しそう!”と、Twitter上に「自分もオムレツをつくって食べた」報告画像が投稿されたほど。筆者も「め以子が納豆嫌いの大阪男に納豆を勧めて断られる」回を見た直後、いてもたってもいられず、つられて自分も久々に「納豆」ご飯を食べてしまった。

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 思うに、色といい光のあたり具合といい、食べ物の映像が実に絶妙に美味しそうに撮られていること、納豆の場合はかきまぜるときの「あの音」がなにげにしっかり聞こえてきたため、胃袋が刺激されたのだと思われる。そしてそのことは、食の専門家の指導のもと、食べ物の表現に力を入れてドラマ制作されている現れにほかならない。

 その陰の立役者は、フードスタイリストである飯島奈美さん。2006年公開の映画『かもめ食堂』で小林聡美さんに「ナミちゃんの作るゴハンは、もはや“消えモノ”ではない「レジェンド」である」と絶賛され人気を博して以降、映画『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』や『体脂肪計タニタの社員食堂』など、数々の作品でフードスタイリストを担当。彼女の手にかかると、映像からまるでできたての湯気や匂いが漂ってきそうなシズル感が溢れると、定評をもつ達人である。

 ちなみにフードスタイリストとは、主に雑誌や書籍の写真、CMや映画など映像作品の撮影現場において、撮影される料理やテーブルセッティングなどの演出を手がける職業である。『ごちそうさん』の公式サイトでも「まな板の上でリズミカルに刻まれるぬか漬けのみずみずしさ、ボウルの底で弾む新鮮な卵、熱したフライパンの上で小刻みに踊るきつね色のチキンソテー、金縁の食器で奏でられるカトラリーの音まで、こだわり抜いた音響が、鮮やかな料理の数々に魅惑的なマジックをかけてくれる」と、そのきめ細かな食の演出の片鱗が明かされている。

 そんな飯島さんの魅惑のレシピ本は数あれど、まずおすすめしたいのは『シネマ食堂』(飯島奈美/朝日新聞出版)だろう。週刊誌『AERA』の人気連載を再構成した本で、実際に制作を手掛けた映画の料理のほかに、彼女がセレクトした映画から食べ物が出てくるワンシーンを取り出して再現したものも加えて、ご飯からスイーツまで総計70ものレシピを紹介しているのだ。しかも、ただの料理紹介ではなく、その映画の雰囲気ごと伝わるような、イメージカットとしての演出がなされている。レシピの横には映画のストーリーや調理のワンポイントmemoも添えられており、映画好きも料理好きも、ページをめくっていてうれしい気持ちなること、うけあいだろう。

 飯島さんはまえがきの部分で、「映画の料理制作をするときは“台本を読んでこう思ったので、このように提案します”と理由が言えるように提案している」と書いている。具体的には、作品中で料理をつくる人の性別や性格、出身地、季節や場所、状況などを考えて、料理や食器を提案しているのだという。台本には「美味しそうな夕食」とだけしか書かれていないこともあるので、そういう場合はシーンの意味を想像しながら食卓の献立を考えているそうだ。

 美味しそうな食卓の映像を見て、ほっこりと幸せな気持ちになって、自分も大切な誰かのために、美味しい料理をつくりたくなる。美味しいものを食べてイヤな気持ちになる人は誰もいない。舞台を朝ドラに移した食の達人は、そんなささやかな楽しみを、今日も明日も改めて思い出させてくれるのだろう。

文=タニハタマユミ