回復しても完治はしない!? アルコール依存症を知ろう

健康

更新日:2013/10/31

 吾妻ひでお先生の最新刊『失踪日記2~アル中病棟』(イースト・プレス)を読んだ。

 「アル中」という割と軽い言葉のせいか、世の中ではどことなく「お酒やめれば治るんでしょ?」みたいな、二日酔いのハード版的なイメージのある「アルコール依存症」だが、その認識が大きな間違いであると、思い知らされる。

advertisement

 もともと酒量の多かったという吾妻先生が「アル中」に足を踏み入れたのは1997年頃。

「ある朝起きたら二日酔いだったのでとりあえず焼酎を1杯」飲んだ。その日の昼間、外で日本酒パックを買って町を歩きながら飲み、帰宅の際に1.8リットル入りの焼酎パックを買って一晩中飲み続けた。そんな日々を繰り返すうち、酒で胃は荒れ、食事を摂らなくなり(患者の多くが栄養失調なのもこれが一因)、飲んでは吐き、また飲んで吐くを繰り返すようになる。食欲がなくなり、不眠症になり、やがては幻覚や幻聴に悩まされるようになる。不安が不安を呼び、酒が酒を呼ぶ、終わりなき負のスパイラル。酒を飲んでいても聞こえる幻聴。出口のない不安からの自殺未遂数十回。その果てに運び込まれたのは──A病院精神科B病棟(通称アル中病棟)。

 吾妻先生はそこで3ヵ月の治療プログラムを受ける。

1期──離脱症状及び身体的治療期間。約1~2週間。
この間、酒びたしになった脳や身体からアルコールを抜き、検査や点滴・投薬が行われる。
酒がなくなったことへの不安や禁断症状(離脱)に苦しむ。

2期──治療プログラムの実践期間。約6週間。
規則正しい集団生活、毎日の抗酒剤摂取、教育プログラム(アルコール依存症に関する座学)、自助グループへの参加、決められた時間内に決められた区域での自由行動も認められる。

3期──退院に向けての準備期間。約4週間。
外出・外泊訓練が行われる。病院内では完全にシャットアウトされていた「酒」があふれる世の中へ出る機会が増える。吾妻先生の言葉を借りれば「“断酒か死か”という考えに洗脳される」ほどの教育やカウンセリングをここに至るまでに受けているので、酒を飲もうとは思わなかったそうだが。

 概要を読んだだけでも「イヤだな」と感じるこの3ヵ月間を、吾妻先生は淡々と紹介する。依存症に関する知識を散りばめながら、入院病棟で出会った風変わりな人々(全て仮名)を「面白いな」と感じる作家の目線で描く。B病棟を裏で仕切る女王様・御木本さんが開催するティーパーティーの様子や、相部屋の患者・浅野さんの「たかりぐせ」や夜の粗相、家族と面会している患者さんのケンカの様子など、愉快なコミックエッセイを読んでいるような錯覚を覚えてしまうが、実際にその場に自分がいたらと思うと、笑えない。

 この本のオビにはこんな一文がある。

「酒無しでこの辛い現実に、どうやって耐えていくんだ?」

 仕事でも家庭でも、生きていくという現実には辛いことがたくさんあるし、「酒でも飲んでパッと忘れちゃおう」と思うこともたくさんある。一杯の酒で、明日から生きていく元気を得る場合もある。だが、二日酔いの先に「アルコール依存症」があることを忘れてはいけない。吾妻先生の言葉を借りれば、アルコール依存症は、ひとたび発症したら「回復はしても完治はしない不治の病」。

 3ヵ月の治療プログラムを終えても、もう一生飲めなくなってしまうのだ。

 間もなく年末の忘年会シーズンが来る。酒を飲む機会も増える。飲み過ぎを戒めるためにも「新久里浜式アルコール症スクリーニングテスト(新KAST)」がオススメ。「新KAST」とは、1978年に初めて日本国内で作られたアルコール依存症のチェック式テストの改良版。男性版と女性版があり、過去6ヵ月間のお酒の飲み方などに関する10問程度の質問に答えるだけで依存症かどうか判定できるというもの。

 自分の中にある潜在的なアルコール依存症の危険性を判定しながら、お酒の飲み方について考えてみるのはいかが? 副読本はもちろん『失踪日記2~アル中病棟』で。

文=水陶マコト/ダ・ヴィンチ電子ナビ

 

「新久里浜式アルコール症スクリーニングテスト」(厚生労働省HP)
男性版
女性版