歴史小説シリーズ第3弾の舞台は平安時代 『はなとゆめ』冲方 丁

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公開日:2013/11/6

<登場人物>

清少納言

清少納言(せいしょうなごん)
本作の語り手。元祖あるある探検隊、元祖ぶっちゃっけコメンテーター、元祖「誰が上手いこと言えと」。離婚後、ブルーな毎日を送っていたところ、突然就職の道が開け、一躍スターになった強運の持ち主。

中宮定子

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中宮定子(ちゅうぐうていし)
平安時代のまっただ中に、自らの美貌と才能を隠さずおごらず、君主の気風と知恵で陰謀渦巻く宮廷を星のごとく駆け抜けた清少納言の女主人。『枕草子』を書かせた仕掛け人でもある。

弁のおもと

弁(べん)のおもと
清少納言の上司。個性的な女房たちを束ねるしっかり者。出仕したての頃、おどおどしてばかりの清少納言を時には厳しく叱りつけ、ワーキングウーマンの心得を教えた。男性は苦手。

橘 則光

橘 則光(たちばなののりみつ)
清少納言の元夫。一子をもうけた後離婚したが、別れてからも交流は続き、宮中では妹兄と呼び合う仲の良さに。だが、互いの主が敵対するようになったため、関係がギクシャクし始める。

藤原斉信

藤原斉信(ふじわらのただのぶ)
宮中の出世頭。清少納言を嫌な女と思い込み、あちこちで悪口を言いふらしたり、無視するなどの嫌がらせをするが、ある出来事をきっかけに誤解を解き、清少納言のシンパになる。

藤原道長

藤原道長(ふじわらのみちなが)
定子最大の敵。権力を手中に収めるため、邪魔になる定子を陥れるべく、全力で嫌がらせをした。だが同時に、定子と彼女を取り巻く女房たちの才能を最も認める人間でもあった。

清少納言が残したかった中宮定子の“はなとゆめ”

 定子と清少納言たちのチームは、他を寄せ付けない圧倒的な華を咲かせていた。定子の父、道隆が病没するまでは。

 道隆の死後、時流は急激に叔父でありながら政敵でもある藤原道長に傾き、定子の一族は滅びの流れに巻き込まれていく。

「改めて『枕草子』を読んでいて、ふと思い出したのが『アンネの日記』でした。道長の圧力によって、中宮定子の境遇はどんどんみじめになっていきますが、どんな状況になっても人間性を失うことなく、ほがらかに笑っていた彼女の姿を描いた文章に、殺戮のまっただ中にいたユダヤ人の少女が“それでも自分たちは人間なのだ”と叫び続けた精神と同じものを見出しました。

 抗えない没落を前に、運命を呪う言葉を撒き散らすのではなく、自分たちがもっとも優しく美しかった時代の肖像を残す。定子という女性が命をかけて産み育てた宮中の“はなとゆめ”を書くことによって、その短い生涯で見せた輝きを後世にまで伝える、これこそが、自分という存在を見出し、花開かせてくれたかけがえのない主への何よりの恩返しだと清少納言は思ったのではないでしょうか。そして、栄枯盛衰が蔓延している今の日本において、その感性は一番求められるものではないかと思うのです。

 僕が歴史小説を書くのは、今の日本が出来上がるまでの長い歴史には、たくさんの人々の想いがあったということを自ら知りたいし、伝えたいからなんです。『枕草子』は教科書の定番だけど、自分が学んでいるものの向こう側には、かつて生きていた人がちゃんと存在しているんだよ、と。『天地明察』ではライバル関係、『光圀伝』では兄弟関係を中心に彼らの想いを描きましたが、今回は主従、それも女性同士の関係性を前面に出すことによって、男にはない水のような柔らかさを持つ感性を表現することができました。彼女たちの生き方は、現代人でも思った以上に共感できると思うので、多くの方に読んでいただきたいです」

取材・文=門賀美央子 写真=首藤幹夫 イラスト=遠田志帆

はなとゆめカバー

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11月8日発売
『はなとゆめ』

冲方 丁 KADOKAWA 角川書店 1500円
「楽しみね。あなたの『枕』に書くのかしら?」中宮定子から下賜された料紙に残すのは、かつて一世を風靡した華麗な一族の姿。女主人によって隠れた才能を見出された清少納言が、自らの半生を思い起こしながら綴った随筆に込めたものとは。平安朝の華と夢を流麗な文章で描く新しい歴史小説の傑作。