故・やなせたかし氏に捧ぐ『やなせたかし大全』が刊行

マンガ

更新日:2013/11/7

 11月刊行予定の『やなせたかし大全』は、『アンパンマン』はもちろん、氏の広範な活動を、オールカラー400ページにて紹介する豪華な一冊だ。中でも、これまで書籍においてほとんど紹介されてこなかった「漫画家」としての活動を大々的に取り上げた点は画期的である。ピリっと世相を突く風刺マンガ、セリフのない“パントマイム漫画”など、やなせ流ユーモアの原点が詰まった作品が多数収録されているのだ。

 また、やなせのマンガ歴からは、今と違う当時のマンガ状況をも覗い知ることができる。例えば、やなせは雑誌だけではなく、企業の会報誌に寄稿するなど、活動の場が多岐にわたるが、背景として、マネージメント的な役割を担った「漫画集団」と「独立漫画派」に所属していたことは大きい。ほとんどのマスコミがこれらの団体を通してマンガの仕事を注文していたというから、やなせも来た球を打つという形だったはずだ。また、手塚治虫の登場以降、マンガの主流はストーリーマンガにシフトしていったが、そうした時代の波の当事者だ。「漫画集団」的な一コマや風刺マンガを得意とするマンガ家はおのずと仕事が減り、やなせもそうした一人だった。そのことは、皮肉にも絵本作家の道へ、『アンパンマン』の道につながる要因にもなっているのだ。

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 先月の氏の訃報、本書刊行前であったことが悔やまれる。やなせたかしが残してくれた膨大な仕事は、「なんのために生きるのか」私たちに改めて問いかけてくる。

文=倉持佳代子/ダ・ヴィンチ12月号「出版ニュースクリップ」